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第一章 ないとなう!-Nation Salvation-

ないとなう! とは(3)

  大人気漫画、ないとなう! の2巻。

 そこで出てくる新しいメインキャラクターが二人。

 アスランの生涯のライバル、キノエ・シュヴァルツ。
 そして生涯の親友、リュウ俊杰ジュンジエ

 キノエの可愛がっている義弟、ユキの登場はもうしばらく待つ事になる。
 この時点では、キノエは正体不明の敵であった。

 帝国士官学校の課外授業ということで、レオニーに連れられて、アスランは冒険者ギルドへ向かう所から、ないとなう! の第二巻は始まる。

 冒険者ギルドに貴族の若造が行くという話はそうあることではない。というよりも、全くない。
冒険者というのは、この場合、武装した日雇い労働者ということになる。時として、そこにはならず者の犯罪者モドキや、浮浪者も含まれる。彼らがその日その日をしのげる仕事を調達出来るのが、冒険者ギルドである。
 要するに、一昔前の現代日本の話にするのなら、フリーター専門のハローワークのような場所だ。ただし、武装しているに限る。

 そこに、一生食うに困らないであろう貴族の若者がふらっと立ち寄ったらどうなるか。
 暴動が起こる--事はさすがにないだろうが、大小のトラブルには巻き込まれるかもしれないと、レオニーは判断した。レオニー自身は、庶民の出身であるから、冒険者ギルドが具体的にどんな場所かは知っていたのだ。

 それでそこは、腐っても豪商の娘、自分の実家のツテをたどって、アスランの身分を詐称させた。アスランが北方のノイゼン港の出身ということは知っていたので、やはりノイゼンからミュラー商会の縁者をたどって上京してきたが、ハーブの独特の匂いに弱くて商会の仕事が長続き出来そうもない、何かちょうどいい職業はあるか冒険者ギルドをのぞきに来たということにした。
 レオニーはその「ノイゼンの若者の縁者」である「従姉妹」という立場。
 
 それでアスランは士官学校の、軍服をモデルにした制服を脱ぎ捨てて、レオニーの用意した、シュルナウの庶民なら誰でも着るようなチュニックの重ね着姿となり、帯剣も庶民っぽさを出せるショートソードにして、いかにも商家の奉公人風のワンピースとエプロンに着替えたレオニーと連れだって、冒険者ギルドに向かった。

 冒険者ギルドは、受付で自分に合った仕事の紹介を受けられるが、壁いっぱいにめぼしい仕事のピックアップが張り出されており、もう片方の壁の半分は本棚になっており、そこに仕事の依頼書や資料がぎっしりと詰め込まれている。
 現時点で、シュルナウの識字率は、世界的にも高い方に入る。
 神聖バハムート帝国の田舎の方では、識字率は50~60%。
 帝都シュルナウでは80%程度と言われている。
 そういうわけで、アスランとレオニーは、受付に呼ばれるまでの待ち時間は、その棚の資料などを見たり、壁の張り紙を見たりすることが出来たのだった。

 アスランは冒険者ギルドを見るのはまるっきり初めてだったので、張り紙を一つ一つ見比べている。レオニーの方は冒険者ギルドで「資料」と言われているものが何なのか気になってそっちのファイルを見ていた。
 そのちょっとした隙に。

 アスランは、張り紙ばかり見ていて上手に、「巨漢」の背中にぶつかってくれた。

 たちまちイベントが勃発して、レオニーが悲鳴をあげるより早く、アスランは、その「巨漢」を殴り飛ばしてしまった。
 本人曰く、胸ぐらつかみあげて殴られそうになったので、殴られないようにしただけとの話である。
「巨漢」は冒険者ギルドの中ではわりと顔が広い方であり、注目を集めること注目を集めること。
 隠密行動(?)を取らせるためにわざわざ商人の丁稚に身分詐称させたのに、まるで意味のないアスランにレオニー顔面蒼白。レオニーだって、アスラン以上に強いぐらいなのだが、それとこれとでは話が違う。

 レオニーが慌ててその場を取りなそうと出て行って、始末書のかわりにすみませんを連呼している間に、受付がやっと、アスランとレオニーを呼び出してくれた。
 だが当然、ここで一個フラグが立っている事は確実である。

 そこで、アスランとレオニーは、冒険者ギルドの初歩として、シュルナウ近郊の田畑に最近出てきた魔獣を討伐して欲しいと依頼された。
 魔獣というのは、魔族の操る獣で、姿形はセターレフの生態系に似ているが、魔界の生態系に属する。そのため、異常に頑丈で凶暴、中には魔法を使う物もいる。
 今回出る魔獣は、セターレフではハイエナと呼ばれる動物によく似ているが、どういうわけか雑食で、勿論食人もたしなみ、牙と、足の爪から毒を吐くというモノであった。
 毒を操るハイエナなのでそのまま、ポイズンハイエナと呼ばれている。
 その小型の群れが、畑や家畜小屋を頻繁に荒らしているので倒してくれ、ただし。

--パーティを組んで。

 そう言われたので、アスランとレオニーの目が点になる。
「パーティ?」
「はい、何人かの高レベル冒険者と組んで行動してください」
「……」
「初心者の方が一人二人でするには、難しい依頼となっております。早めに冒険者の仕事に慣れるためにも、高レベル冒険者と……」
「……………………」

 たった今、顔が広そうな巨漢を、来るなり殴り倒したばかりなのに!?
 レオニーは一瞬、イジメかと思ったほどだった。
 しかし、そこで思い直す。
 これは気の強いアスランに、協調性をつけさせるいい機会かもしれないと思ったのだ。

「わかりました、それでは、誰か高レベルの方を紹介して……」
「いや、いい。レオニー」
 アスランは妙に自信を持った声で言った。
「ポイズンハイエナ数頭だろう? それぐらい、俺一人でやれる」

 実際問題、アスランの強さなら、出来ない事ではないだろう。
 だが、ここは冒険者ギルド。アスランのよく通るはっきりした声は、当然ながら周囲の中堅冒険者達に丸聞こえである。
 はっきりと、周囲の助力を断っているようなものだ。

(アスラン! あなた、ここに何しに来たの!)
 思わず机の下から、アスランの弁慶の泣き所に蹴り入れそうになるレオニーであった。

「果たして本当にそうかな?」
 そのとき、いっそ優雅な声でそんなふうに、声をかけてきた男がいた。
 レオニーはその装備を見て驚いた。
 一見、目立たない渋めの色合いの装備だったが、全身の鎧が全て、よく手入れされており、使い込まれているのがよくわかった。しかも、目立たない色合いでありながら、熟練の騎士ならよくわかる高額装備ばかり。
 しかも、純白の可愛らしい子龍を連れている。
 アスランの方も、すぐそれに気がついたらしく、日頃の生意気で高飛車な言葉を発さず、黙ってじっと彼の方を見ている。

「リュウさん! お仕事もう終えられたのですか!?」
 受付の女性は、ぱっと顔を明るくさせて、その高レベル冒険者の名を呼んだ。
 それだけで、彼がよほど当てにされ、愛されている人物なのかがよくわかる表情だった。

「ええ、おかげさまで。ゴブリン退治ですが、無事終了したので日程を繰り上げて帰ってきて、向こうで書類を提出してきた所です」
 受付の反対側のコーナーを見ながらリュウはそう答えた。
 そして、レオニーと受付嬢の顔を見比べ、その後にアスランの方を見る。

「一緒にパーティをする冒険者を探しているんですね。よければ、今ちょうど、手が空いてますよ。私が……」
「「助かります!」」
 何故か、受付嬢とレオニーが同時に叫ぶように言った。
 アスランは女二人の甲高い声に押されてしまう。
 受付嬢の方も騒ぎの事を大体把握していて、アスランに協調性をつけさせようとしていたらしい。レオニーとはからずも同じ思考回路。
 そこに、リュウが来て気を利かせてくれたので、もう渡りに船ということである。

 それが、アスランとリュウの出会いだった訳である。
 結論から言うと、相性は絶妙であった……。

 リュウの方が、ポイズンハイエナの狩りには慣れていた。
 何しろ彼は、この時点で既に90歳以上。その人生の過半数を、世界中を旅する冒険者として過ごしている。
 元は、シャン・リーミン大陸の華帝国にある山奥の秘境、|青龍人《ドラコ》だけの名もない村の出身だとか。
 仕事は正確で確実、気配りも出来て話題も豊富、昔で言う所の知恵袋の人格者である彼は、冒険者ギルドの職員にも冒険者にも絶大な人気を誇っていた。
 ランクはこの時点でSS。アスランは新入りとして入ってきたばかりなので、Cランクである。
 神聖バハムート帝国では、冒険者はSSランクからS、A、B、Cランクに分けられ、そのほかに特例としてSSSランクがあるのだ。
 そういうわけで、ハイエナの十匹や二十匹、モノともしない強さと賢さは、確かにリュウの方があった。

 アスランも、実家のジグマリンゲンで、騎士見習い時代に何度かポイズンハイエナを狩った事がある。
 単純に、罠を張って、餌を用意して釣り出して叩くというやり方ではあったが。
 リュウの方がもっと効率が良くて安全な方法を知っていた。
 それは匂いをうまく利用する方法である。
 リュウは、アスランがミュラー商会の使用人だったと聞いて、すぐに、ポイズンハイエナが非常に嫌がる匂いを放つハーブを手配してくれるように頼んできた。
 ハーブ、薬草なら栽培されているものも自生種も、ミュラー商会の倉庫にはそろっている。
 レオニーは即座にリュウの頼んだ種類と量を用立てる事が出来た。
 リュウは実に手際よくそのハーブを使い、一カ所にポイズンハイエナの群れ全体をおびき出してアスラン、レオニーとともに叩いた。
 アスランが知っている方法の半分の時間と労力で、リュウはポイズンハイエナの群れを倒してしまった。

 そこでアスランは、リュウの実力とレオニーの実力の一部を知る事が出来た。上には上がいるというのは単なる格言ではないのである。中身があるのだ。
 リュウもレオニーも息一つ乱さず、別の意味で息の合った動きでモンスターを倒したのであった。

 そして、そこで「巨漢」と子分数名登場。
ハイエナ退治で疲弊しているであろう、生意気なアスランとその仲間を一網打尽にして、俺様に「詫び」させてやるという手はずだったのだが。
 何しろ。
 誰も疲弊していなかった。
 瞬く間に「巨漢」と子分は返り討ちにあい、アスラン達はそういう冒険者ギルドにおける逸脱した、ルール違反の行動を関係各所に伝える事となったのだった。

 それで2巻の前半終了。
 リュウとアスランは、そのまま意気投合し、レオニーはアスランの、帝都シュルナウにおけるフォンゼル以外の友達が、まさかの90歳別大陸の冒険者ということに、色々な意味で泣いた。

 だがアスランは、リュウの前だと礼儀正しくもなるし、性格の丸さもうつるらしい。
 日頃の生意気で攻撃的な態度が控えめになり、自然体のあっけらかんとした明るさとてらいのない笑顔が出てくるようになる。
 それはよい傾向なので、レオニーはアスランとリュウが接近するのを、禁止することはしなかった。リュウの方も、アスランの実力と性格は最初から見極めていたらしく、教える事は教えようと思ったようだし、実際、アスランは吸収が早い方で面白かったらしい。
 --このときには既に、リュウは、アスランがミュラー商会の下っ端だなどという大嘘は見抜いており、貴族の若造だとはとっくに知っていたも同然だった。だが、知っている事を黙っていた。

あとがきなど
読んでいただきありがとうございます。
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