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第一章 転生養女エリーゼ

転生養女の挨拶回り

 魔大戦ーー。

 ハルデンブルグ伯爵とともに、アンハルト侯爵も、戦場に出撃していた。

 作戦で殉職したのはハルデンブルグ伯爵クラウスだが、アンハルト侯爵ハインツも、ある意味背中合わせで作戦を実行しており、自分が死ぬかクラウスが死ぬかはまさしく時の運という状況だったという。


 クラウスとハインツは、戦友であり親友であり、領地が隣同士のライバルでもあり幼なじみでもあった。


 そのクラウスが、当たるか当たらないかのくじ運のようなもので、死んだ。ハインツは考える事もあったが、彼が残した一粒種の姫を自分が引き取って育てる事にした。

 政治的な思惑ももちろんあったが、自分たち夫婦にはいつまでたっても子どもが産まれず、妻のゲルトルートももはや諦めているということが大きかった。ゲルトルートは若い頃女の子が欲しい、と口癖のように言っていたし、うってつけのようにエリザベート・ルイーザは女の子だった。


 話はトントン拍子で決まり、エリザベートは、戦勝(両親死亡)の後、一ヶ月後には隣のアンハルト侯爵家に現れ、これからお世話になりますと挨拶をした。


 ハインツはエリザベート……エリーゼを大切に扱うと決めていた。今、自分が生きていられるのは、言い方は悪いが、あのときクラウスと、同行していた嫁のエミリアが殉職するような戦い方をしてくれたからである。もちろんそれを口に出して言うことはしなかったが、エリザベートにはよい教育を与え、良縁を与え、幸せにしたいと思っていた。それが戦友クラウスへの、何よりの手向けだ。

 元から女の子が欲しかったゲルトルートには異論はない。女同士で水入らずの楽しみをたくさん作りたいと思っていた。良縁選びには絶対口を出して、一番いい縁を私の目で決めると言った。


 エリーゼは、そういう養父母の期待に応えたい気持ちはあったが、前世で一家心中、現世で両親戦死という衝撃はなかなかのもので、部屋から出る事がほとんどなかった。それでも、何度かは家族団らんのほのぼのとした時間を持つ事はあった。土曜の晩餐会には必ず顔を出して、失礼な態度を取らないように心がけた。


 そんなこんなで、はからずも、エリーゼは高校に通えるようになったのである。地方の貴族学院ではなく、帝都の王立学院高等部。


(死ぬときは、高校に行きたいって思ったけれど……こんな事になるなんて。異世界の高校……魔法とか教えるんでしょ? 変なトラブル起きなきゃいいなあ)

 エリーゼはネクラにも、そんなふうに捉えていた。前世の現代日本で、中学までは出ているが、高校に行った事はないので、不安が大きい。ゲルトルートも、侯爵夫人の仕事があるんだし、きりのいいところでデレリンに帰るだろう。そうしたら、エリーゼは、シュルナウに使用人たちとだけ暮らすということになる。

 だがそれも、親心あってのことだし……とぐるぐる考えているうちに、時はたち、新年が明けた。



 新年パーティはシュルナウの王城で、華やかに開催された。

 バハムート暦にして904年の事である。

 五年に及ぶ魔大戦を乗り越えた上での新年である。

 帝都ではあらゆる場所に国旗が掲げられ、朝から花火が打ち上げられ、美しい花とテープが通りを乱舞していた。


 メインストリートから正面の大門をくぐると深紅のカーペットが敷き詰められており、その上を歩いて行けば、パーティ会場に着く。

 会場は入り口から向こうの壁が目がかすむほど遠くにあり、磨き抜かれた床は鏡のように輝いており、その上にきちんとセッティングされた丸テーブルが所狭しと並べられ、よい匂いのする花が活けられていた。

 テーブルとテーブルの間には観賞用の花やグリーンだけではなく、珍しい南洋の熱帯魚や亀などを入れた水槽がところどころに置かれている。それが、テーブル間のちょっとしたプライバシーを守っていた。そのほかにも、戦で活躍した軍用犬が表彰のメダルを首にかけながらテーブルの脇に座っていたり、庭の方では名誉の軍馬がやはり着飾らされて立っていたりした。


 中央はダンスホールになっており、その周りに楽隊が並んでいる。楽隊は古式に則り賑々しい派手な装いで、かしこまりながら次々に華麗な音楽を奏でていた。


 戦勝を祝い、無礼講と言うことで、アンハルト侯爵家が着いた時にはすでに大勢の男女がパーティを楽しんでいた。

 エリーゼたちは、正午より一時間程度前に入場した。


 バハムート暦は、どういうわけか、エリーゼの知っている現代日本の暦に酷似しており、一日は24時間で、秒、分、なども同じ数え方をする。一年は360日、一ヶ月は30日きっかりだ。現代日本の漫画家が作った漫画なのだから、当たり前だが、世界観は妙に共通項が多い。そういう意味では、エリーゼはセターレフになじむのは早かった。


 問題は人間関係で、前世の事があって、人間不信のケがあるエリーゼは、こういう場面が特に嫌いだった。だが、恩義を感じている、アンハルト侯爵に恥をかかせるわけにもいかない。ハインツの後をついて歩いて、ゲルトルートと一緒に侯爵家の知人友人に頭を下げておとなしい挨拶をした。

 どうしても緊張してしまうので、ぼそぼそと小さい声になってしまうのだ。


 ハインツは、当然ながら、エリーゼを帝都の英雄たちに見せる気でいた。見せびらかすというほどではないが、あのぎりぎりの作戦で戦死したクラウスの一粒種ということで、彼のおかげで俺たちは生きているというような話をしたいようだった。そしてあわよくば、若者との良縁……である。ちなみに、バハムートでは女子の結婚年齢は15歳からで、適齢期は18歳~24歳ぐらいである。三年後には嫁に出すつもりで、相性のいい英雄がいないか、ここで選ぶ気もあった。妻のゲルトルートも当然同じ考えである。


 わかっていないのは、肝心のエリーゼだけで、何しろ彼女の常識は、晩婚化の進んだ日本であるから、自分などまだまだ子ども中の子ども、大人の相手になどならないと思い込んで、のそのそとハインツの後を着いて歩き、ハインツが挨拶したあとに、ぼそぼそと、「エリザベート・ルイーザです……よろしく……」と消え入りそうな声で挨拶をした。


 エリーゼは、こういう場所が元から苦手なのだ。


 会場を順繰りに回って、貴族の長老たちに面識を作ろうとするアンハルト侯爵夫妻。エリーゼの方は養父母の言うとおりにおとなしく……おとなしすぎるほどの様子で、ついて歩き、まずは大貴族の公爵やら大臣やらの老人層(ターゲットは老人の周りにくっついている若者)と話し、次に、本命の、ともに戦った若い英雄たちの方へと向かった。

 エリーゼはその頃には、だんだん、惰性になってきていた。何しろ、漫画のないとなう! にはほとんど出てこなかった、大貴族の老人たちと、ハインツの話は、政治や軍事についての噂話ばかりで、ゲルトルートは常識のようだったが、エリーゼには何がなんだかわからず、呪文をぼんやり聞いているような感じだったのである。その周りに従者のようにひっからまっている若者たちは、舌をかみそうな外国ネームで、名前を覚えるのも一苦労。


 そんな事をした後に、次に「一緒に戦った英雄たちの方へ行くよ」と言われると、エリーゼは、どうせ同じ事なんだろうと思って、のっそりとついていった。


「まずは、アスランだな。魔王を倒した勇者」

「……はい?」

 ハインツの言葉に、エリーゼは目をぱちくりと瞬いた。全くの不意打ちだった。アスランを魔王へ向かわせるために、作戦指揮官となり、さらに実行して死んでいった父クラウスと、母エミリア……。


「アスランだ。エリーゼ、クラウスの縁者なんだから、ぼんやりしてないで、しっかりと相手と話しなさい」

 ハインツは半ば叱咤するように、そう言った。

 ゲルトルートもうなずいた。


「…………」

 エリーゼは何も言わずについていった。胸中は複雑だった。だが、確かに、顔を見たい気はした。恨みはまるでない、彼のおかげで、魔王は倒され、人類は守られたのだ。だが、父は……アスランの中に何を見て、死んでもいいと思うような戦闘を行ったのだろう。立派に戦って死んだとは聞いているが。母も。


 ダンスホールに近い丸テーブルの方へ、ハインツは妻子を連れて歩いて行った。

 そこでは、二十代半ばぐらいの男性たちが、つるんで談笑していた。なんというか、本当に、「つるんで」としか表現出来ないような気安さと砕けた感じがあった。

 エリーゼは、胸が高鳴るのを感じた。

 アスラン。

 フルネームぐらい知っている。

 アスラン・アルノルト・フォン・ジグマリンゲン。

 何でも、彼の母親はシャン大陸のクイン公国の姫であり、そのため、異国風の名前を持っているのだとか。

 漫画の中では、正義感と行動力にあふれた、今時熱血に近い、典型的なヒーローで、とにかく中心人物となって動くので、常に渦中の人である。


 確か、兄が一人いて、ジグマリンゲン侯爵家を継ぐのは彼なので、領地の経営は兄に任せ、自分はシュルナウで自由に暮らしているのだとか。そんな設定があったような気がする。


 どうしてなのか自分でもわからないが、その侯爵家の次男に会うと言うだけで、エリーゼは喉が詰まったようになり、胸が苦しくなり、肌がうっすらと汗ばんだ。

 緊張しているのが自分でもわかった。

 アスラン。救国の英雄。父の死のきっかけ……。


「ジグマリンゲン殿。ちょっと失礼……」

 ハインツが話しかけると、銀髪が揺れた。典型的な風精人のとがった耳。浅黒い肌。


 煌めく青空を思わせる、明るい意志の輝きが鮮やかな青となって、エリーゼの目に食い入った。

 まぶしいような印象を受けた。


 実際、強烈な印象を残す若者であった。カリスマとはそういうことを言うのか。一目見たら、忘れられない、その瞳、顔、オーラ、動き……全部。アスラン・ブラジウスはそういう若者で、エリーゼは、不思議な事を考えた。

 存在するだけでそんな極端な明るいオーラを放つ彼に対して、自分は本当に幽霊のようだと。そして、幽霊の自分が、彼の隣に立ったりしたら、彼の存在に振り回されて焼け焦げて、死んでしまうだろうな……と。

 本当に、一目見ただけで、エリーゼはそう思ったのだった。


「アンハルト侯爵。お久しぶりです。お元気でしたか?」

 典型的な挨拶をしながら、アスランはさっぱりした明るい笑顔をハインツに向けた。

 ハインツは笑顔を返して、アスランと礼儀を兼ねた握手をした。

「ああ、領地で元気にやっている。今年は麦はまずかったがワインの当たり年になりそうでね。今度、ワインをそちらに回そう。エリーゼ、ご挨拶しなさい。アスラン・フォン・ジグマリンゲン侯だ」


 黙って話を聞いていたエリーゼだったが、父にいきなりそういわれ、慌てて挨拶しようとして、舌を噛んだ。

 その間に父が言った。


「ジグマリンゲン殿。クラウス・フォン・ハルデンブルグの一人娘のエリザベート・ルイーズです。現在、私が引き取って育てています。この春から王立学院の一年生に入るんですが……」

「ハルデンブルグ伯爵?」

 アスランはおうむ返しにした。

 その名前を聞くと、アスランの隣でつるんでいた若者たちも、一斉に、エリーゼを見た。

 3~4人いただろうか。人間が苦手なエリーゼは、身を竦めて一歩下がった。


「あのときの作戦の……そうですか。彼女が……」

 どんな作戦だったのかは、語られない。そういうことなのだろう。世の中、家族だからこそ、見たり聞いたりしてはいけないことがある。触れてはならないことがあるのだ。

 聞くべき時が来たら、恐らく、ハインツの口から父の死の事は聞かされる……エリーゼはそう判断していた。前世で、自分が姉を傷つけたのだから。


 アスランの視線が、エリーゼの顔に当たった。エリーゼは、黙って彼の目を見た。広い空を思わせる青い輝き。

 落ち着いてよく見てみれば、彼は、美形なんだろうと思う。だが、美形と言う言葉では表現しきれない何かがある。


「ありがとう。会えて嬉しいです。エリザベート」

 アスランは、その青い瞳を潤ませて、エリーゼの顔を見てそう言ってくれた。

 エリーゼは、それだけで十分だと思えた。


 色々勘ぐらなくても、父の死については、言葉通りに受け取ればいいだろう。


 アスランの左右にいた若者たちは、皆、興味深そうにエリーゼを見ている。アスランは公式設定では25歳のはずだが、皆それぐらいの年齢に見えた。

 ……というか、漫画に出てきた登場人物たちだったので、エリーゼはそれを知っている。


「あっと……紹介しよう。エリザベート、こっちがキノエ・シュヴァルツ。王女の護衛の忍者だ」

 もちろん、知ってる。

 黒髪黒目の東洋の血を引く彼は、アスランと同じくシャン大陸の華帝国辺境の島の血を引く男で、影が薄い事が特徴とされている。今日も、パーティに来るにしては地味な黒衣に身を包み、無口な様子でアスランの隣に立っていた。

 関係性は確か……アスランのライバル。

「どうも。……ハルデンブルグ伯爵にはお世話になりました」

 甲は軽くエリーゼに会釈をした。エリーゼは会釈を返した。


「こちらがリュウ。青龍人でとんでもない長命だが、気にしないでくれ。冒険者だが、気のいい男だ」

 次に紹介されたのが、青龍人でその名の通り、龍を思わせるツノと尻尾を持つ、一見して二十代の青年だ。金髪に碧眼、冒険者として申し分ない長身の体躯を持つ。

 知ってる。

 確か、満年齢は100歳で、本名はリュウ俊杰ジュンジエ

 バハムート人にはジュンジエがジジイと聞こえてジジイと発音してしまう。そのことに猛反発して、リュウと名乗っているという設定である。

 確か、番外編のラノベがあるはずだが、のゆり(エリーゼ)はそれはまだ読んでいない。読むどころじゃない状況下で発売されたはずだ。

「リュウです。エリザベート嬢。王立学院で勉学に励むとか……早くこちらの生活に慣れる事が出来ればいいですね」

「あ、はい……」


「あとはユキ。リュウと同じく冒険者でまだ若いが、伸びしろが凄くある。大戦でも活躍していたが、将来が楽しみだ」

 そんなふうに紹介されたのは、地獣人にしか見えない少年である。

 狼耳と狼尻尾を持っているが、そんなに毛深くはない。髪の毛は赤みがかった焦げ茶、瞳は琥珀きん色。

 確か設定上は、2~3代前に常人の血が入っているということである。

 甲《きのえ》の血のつながらないきょうだいで、いつも行動を共にしている。謎の多い存在だが、漫画ではその謎を小出しにしているため、彼らに関する事件の全貌は把握出来ていない。そんなことより魔大戦の作戦や戦闘に筆が割かれていた。

「どうもよろしく! ハルデンブルグ伯爵はすさまじかったよ。夫婦で獅子奮迅の働きだった。俺もあんな頼れる人になりたい。後で色々話を聞かせてね!」

 英雄のはずなんだがやたら人なつっこい。どうやら年も近いらしい。エリーゼは引きつり笑いを浮かべて、うなずくだけだった。


(恐らく、25巻で突入したラブコメ編が、この、キノエユキのちらつかされてきた伏線の整理で正体が暴かれるような事件があるんだろうけど……今、魔大戦終了で、それこそ25巻あたり? どういう話になっているんだろう。こじれないで欲しいなあ)

 何しろ、25巻は読むには読んだが、内容をよく覚えていないのだ。

 女子が少年向けの、エロいラブコメ見ても、反応は薄い。


 どういうわけかこういうことになったのだが、コマの外で生き、コマの外で死んだモブの娘が、何をすればいいかというと、エリーゼはこういう風に把握した。


(でしゃばらない!)


 確か、伏線通りに行くのなら、アスランは王家の三姉妹のうちの一人と結婚するだろう。

 皇家にはイヴとマリという双子の姉妹、それと第一皇女のアンがいる。その三人娘がこれから、英雄アスランを射止めるために戦闘状態に突入するのだ。

 そこにライバルキャラのキノエユキの出自が絡まって、恐らくラブコメミステリー仕立て、かっこいい戦闘含みという漫画にはよくある話になるに違いない。

 そういう状況で、コマの外のモブの娘が突撃していって、面白い事になるわけがない。外野は面白いかもしれないが。


(でしゃばりません、モブはモブです。このまま印象に残るようなことはせず、さっさと退散しよう。お礼も言ってもらったし、挨拶もしたんだからおとうさまも気がすんだはず。それじゃ、さっさと帰る算段を……)

 と、言う思考回路で、エリーゼは「あ、はい」を繰り返しながら会話を切り上げ、ハインツにせかすような視線を投げて、その場はやり過ごした。


 ちなみに、バハムート帝国には人種がある。人種といっても、現代日本と同じ概念ではない。


 まず常人オルディナ。これが、現代日本と同じ体型と同じ特徴を持つ人間。知能、能力、現代日本に住む人類と変わらず、寿命は80~90歳程度である。


 次に、バハムート帝国の50%、特に上流階級を占める人種が風精人ウィンディである。これは、日本のゲームによく出てくるエルフに似ており、多くは金髪や銀髪などの色素の薄い美形で、風を操る魔法に強い。また、青龍人ドラコほどではないが、常人《オルディナ》より長命で、長いもので300年ほど生きると言われている。


 リュウと同じ種族なのが青龍人ドラコ。ゲームで言うならばドラゴニュートだろうか。龍を思わせるツノと尻尾を持ち、水を操る魔法をよくする。中には鱗を持つものもある。魔力次第だが、魔法をよくおさめた青龍人は自身が龍に変身するという。平均寿命は300歳以上。

 バハムート帝国では数が少なく、せいぜい人口の10%ほどしかいないと言われている。


 同じく帝国では希少種なのが、地獣人モフユキの種族である。

 様々な獣耳と獣尻尾を持つ、獣人。そのせいか、昔は差別を受ける事もあったらしい。

 それが、なくなってきたのはごく最近の事。

 どういうことかというと、現皇帝と先帝の正妃が地獣人の姫だったのである。当然、生まれた娘たちも、風精人の特徴と地獣人の特徴を兼ね備えている。

 そのため、昔はしつこく残酷であったらしい、地獣人への差別は最近はほぼなくなったという話だ。そのことについてはエリーゼは学校で習った。

 

 何故に、先帝と現皇帝が、地獣人の姫を選んだかについては、魔大戦のさなかに明らかにされている。地獣人の姫だけが持つ、祝福と呪詛を自由自在に操る言霊の禁術があったのだ。魔族を撃退するには生半可な方法では通用せず、地獣人の姫に伝わる禁術を上手に利用して、帝都シュルナウ全体に防御結界を張り、魔族の侵入を阻み、その間に英雄たちが魔王を仕留めたという事である。漫画だけ読んでいれば。

 他にもいくつかの人種がこのセターレフに存在し、それぞれの文化と誇りを持って生きている。引きこもりのエリーゼは知らない事がほとんどだが。


 ちなみに、エリーゼは、帝国の上流階級では最もスタンダードな風精人である。銀髪も、色素の薄い瞳も、そのものだ。目立たないように生きようとするなら、上流階級に限るかもしれない。エリーゼは養父の思惑とは全く別に、英雄たちと関わるような事はせず、目立たずひっそりと暮らしたかった。もう二度と、騒動に巻き込まれるのは嫌だった。

あとがきなど
読んでいただきありがとうございます。
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