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第二章 ないとなう!-Nation Salvation-

ないとなう! とは(2)

 数百年前、神聖バハムート帝国は、皇位継承争いに様々な権力者や権力を狙うものたちによる虎牙戦争により、テラ大陸各地を炎上させた。その中でも最大級の影響力を持っていたのが、ミトラ教会である。

 ミトラ教会--。
 神聖バハムート帝国で、国教とされるのがミトラ教であり、彼らはミトラ十二神をあがめる事になっている。

 ミトラ十二神とは、神聖バハムート帝国の東に広がる大海原カイ・ラーにあったとされる楽園大陸ミヌーで信仰されたと言う神々である。

 神聖バハムート帝国、創世の時代において、初代皇帝ルシュディー(♂)は、既存の宗教勢力による国政への介入を嫌い、既に廃れていた超古代において崇拝されたとされるミヌー大陸のミトラ十二神を借りてきて、自らミトラ教会を建設、それを国教としたのであった。
 その際に、自分の名前も、古代ミヌー風のルシュディー・アル・ガーミディとしたのである。その前は、バハムート風のルッツという名を持つ地方貴族の青年だったのだ。
 そのルシュディーが最も愛したのが、ミヌー大陸の神人の血を引くと言われ、実際に、古代魔法を自由自在に操る、巨大過ぎる火炎の魔力を持った美しき魔法使いカースィム(♂)であったと言う。
 后妃は后妃として別にいたのだが、ルシュディーは生涯、その盟友である青年を愛し、裏切る事はなかった。
 それだけではなく、テラ大陸に群雄が割拠し、魔族がはびこる暗闇の創世記において、ともに戦った他の仲間達に将軍の位を与え所領安堵させ、そのことによって神聖バハムート帝国の伝統と皇統を切り開いたのであった。ルシュディーの仲間達の血盟は死ぬまで裏切られる事がなかったと言われる。
--そのため、神聖バハムート帝国においては、同性愛はそれほど異端視はされていない。何しろ、初代皇帝が、后妃にちゃんと孕ませて皇統を継ぐ男子は産ませたが、それとは別に男の愛人との絆を死ぬまで裏切らなかったのだから。

 そんな大問題を抱えた初代皇帝を、引きずり下ろそうとした旧弊な宗教勢力は山ほどあったらしいが、そこを耐えしのいで、初代皇帝の権威を高め、愛と正義と真実を示したのがミトラ教会であった。


 その主神はミトラ。光と愛、正義、威厳のシンボルである。
 神々にはそれぞれの象徴とされるエピソードがあり、それにまつわる神学は、神聖バハムート帝国においては現在でも盛んである。


……ミトラ十二神……

主神 ミトラ 全知全能神。

山の女神 マウナ 神の妃。家庭、かまど、女性を司る。

天空の神 オル アイナの夫。雨の神でもある。雨神ネームはウア。

大地の神 アイナ 地母神。オルの妻。

冥界の神 マウロア ナイア、ミトラの兄。ピリナの夫

闇の女神 ピリナ マウロアの妻でオル、アイナの娘。マウロアに冥界に強奪される。

戦いの神 ホロムア ラナキラの双子の兄。ミトラとマウナの子。

戦いの女神 ラナキラ ホロロアの双子の妹。ミトラとマウナの子。

太陽の神 アカラ マヒナの兄。光明。ナイアとウェリナを争う。オルとアイナの子。

月の女神 マヒナ アカラの妹。処女神。森と狩りも司る。オルとアイナの子。

美と愛の女神 ウェリナ 美と愛を司る。神々随一の美人で気立てが良い。

海の神 ナイア マウロアの弟、ミトラの兄。アカラとウェリナを争う。


 その他にも、民間には工人の神ゴーシュをはじめとして、様々な神が信仰され、様々な魔法や民話が存在するのが、現代のテラ大陸の文化である。

 友原のゆりは、その話をどうやって知ったのかというと、ミトラ十二神の事を教えて欲しいと龍一に頼んだ際に、龍一がその関係の公式資料と同人誌を選別して与えた際、一冊、ルシュディーとカースィムのBL本が紛れ込んでいたのであった。うっかり間違えた龍一が一冊だけ混ぜてしまったのである。
 そういうわけで、のゆりは、実の兄(ゲーマー)を通してBLを知るというとんでもないウィタ・セクスアリスに遭遇したのであった。
 そして、のゆりが腐女子かどうかというと、とりあえず、兄の龍一に「お兄ちゃんは何でこの本を持ってるの、興味あるの?」と質問してしまう程度には腐女子である。何でそんなことを聞くのかというと--そのサークルに連絡を取りたいからなのだ。だが勿論、妹を健全に育てたい龍一は、そのサークルへの連絡先を全て隠してしまい、のゆりの腐女子デビューは中途半端な形に終わってしまった。

 そして龍一が何でそんな本を持っているかというと、彼は、ネタをネタとして割り切れる人間だったため、BLでもGLでも、ネタの鮮度がよくて面白ければとりあえず買うという性質だっただけである。


 閑話休題。

 そんなわけで、真龍暦890年代にジャンプすると、ないとなう!-Nation Salvation-が始まるのである。
 この場合の真龍とは、惑星セターレフを守護する8頭の龍がいるという、ミヌー大陸の古伝による。初代皇帝ルシュディーは、中でも真龍バハムートを見た、あるいは戦って勝利を認められたという謎の伝説を持っているのだ。
 真龍バハムートとの戦いに勝利し、帝国がその加護を得たのが真龍元年というのが、帝国では常識なのである。

 真龍暦892年の初秋。
 帝都シュルナウにある士官学校の二年生に、一人の少年が転校してくる。
 そこから、ないとなう! の第一巻が始まる。

 士官学校では、陸軍コースを取り、いきなり凄まじい実力とカリスマ性を発揮したのがアスラン。
 アスラン・アルノルト・フォン・ジグマリンゲン。
 それこそ、魔大戦が始まる前夜、アスランは、陸軍コースが行ったシュルナウ近郊の魔族討伐任務で、三年以上の先輩を差し置いて非常識な破壊力を見せつけ、ボスモンスターを一撃即死させるほどの戦闘力を発揮した。
 そのボスモンスター……即ち魔獣は、士官学校の当時の教員数人がかり束になってやっと倒せるという代物で、それをいきなり入ってきた転校生が鼻ほじりながら一撃即死させたのだからエライ騒ぎになる。

 しかも、当時のアスランの辞書には謙虚とか謙遜という字はなかったらしく、少なくとも、ゲルトルートの言う「驕らない意味で自分を知ってる男」ではなく単純に「自分を知ってる(つもりになっている)男」であった。
 だから、魔獣を一撃即死させた時も、謙虚な振る舞いはしなかった。

 翌日から大変面白いターンがやってきたのは当然だろう。

 同輩は勿論、三年以上の先輩諸兄も、それ諸兄じゃなくて処刑だろ……と突っ込みたくなるような言動で、愛嬌のないアスランに刺し放題刺しまくった。
 しかしどういうわけか、アスランはそういうことには動じなかった。大体、一通り、どこかでやられた事があるんじゃないかという風情で、平然とスルー。

 そうすると名分が立たなくなるのが先輩というものなので、どんどん士官学校中がとげとげしい空気になっていく。
 そこで登場するのが、フォンゼルという青年である。
 帝都シュルナウに古くから伝わる貴族クーベルフの嫡男である彼は、やたらに強くて有能ではあるが、何でもかんでも一人で出来る気になっている(ように見える)アスランに気を遣うようになったのだ。
 何でそうなったのかというと、答えは単純。級長だったのである。
 学級会の重鎮。
 アスランが次から次へと先輩やら同輩やらと騒ぎを起こすと、クラスのしわ寄せが酷くなり、そのしわ寄せを一身に受けた級長が出るハメになったのであった。
 クラス委員長をやるぐらいなのだから、フォンゼルも勿論、有能な魔法使いであり騎士である。

 突っかかってきた先輩達との間に入ってアスランの事を面倒を見ているうちに、自分が、三年生四年生の連合軍からの攻撃を飛び火されるという痛ましいイベントまで発生。

 アスランをかばっているように見えたらしくて、古から伝わる「一人で学校の裏の雑木林に来い」という泣きたくなるほど古典的なイベントの犠牲者になり、そこで誤解を解こうとしているうちにどこから見てもカツアゲの体勢に入ったところで、どうやってか嗅ぎつけたアスランが登場。

 フォンゼルが殴られる前にアスランが先輩を殴ってしまった。
 その程度に陰湿な場面であった。
 そこから先はなしくずしに、ヤンキーイベントを蹴散らすだけのヤンキー漫画になってしまうが、フォンゼルも釣られて随分、攻撃魔法を先輩に向かってぶっ放していたのが印象的なイベントである。

 そういうわけで、級長を庇う事により、アスランはクラスになじんだ……というか、被害者スメルが普通じゃないフォンゼルから色々話を聞いて、さすがに、色々反省したらしく、フォンゼルと一緒にクラスになじむ努力をようやく始めたのであった。

 転校当時はやたらに荒んで寡黙だったが、元は明るくあっけらかんとした性格のアスランは、フォンゼルが心配するよりは随分早く、クラスに溶け込み、冗談を言い合うような友達も何人か出来たのであった。

 それで一番、安心して胸をなで下ろしたのが、年若いクラス担任レオニーである。

 レオニー・ミュラー。
 平凡すぎる苗字を持つ彼女は、士官学校では極めて珍しい、庶民出身の女性教員であった。しかもまだ若く、年齢は、22歳ぐらい。

 何故、多くの貴族の子弟の通う士官学校の教員に、女性がいたのかというと、理由は簡単。レオニーは、アスラン並みに戦闘力があった。もしくは、アスラン以上に戦闘力がある。だが、いつもいつも、庶民出身の女性であることを揶揄されて、実力が発揮出来ない立場だったのだ。

 何故そんなに強いのか--。
 それは、豪商の娘だからである。

 惑星セターレフにおいて、魔法は、何も、貴族しか使えないものではないのだが、一般には裕福な貴族ばかりが使う事になる。
 何故なのかというと、魔法の習得には、むやみやたらに金がかかるからだ。魔法の教本も、アイテムも、薬品も、とにかく、目玉が飛び出るような高額を使う。しかも基本を習得するまでにかなりの時間を使う事になる。
 そのため、よっぽど金とヒマを持て余した貴族だから出来る事とされがちなのであった。

 そこに、豪商の娘レオニーの登場。
 彼女の両親は、元々、シュルナウ港でハーブの貿易をしていたのだが、他国の香辛料に手を出して大当たりを出した。香辛料の貿易で、めきめきと金を蓄えた両親が不満だったのは、彼らの跡継ぎに女の子数人しか生まれなかった事である。


 所がその長女であるレオニーが、これまた優秀な頭脳と美貌、高身長と運動神経に恵まれていた。
 女の子には女の子にだけ出来る仕事があると気がついた両親は、利発な娘に高額をかけて魔法と剣術を教える事にした。他にも様々な礼儀作法やら古典教養何やら……。
 豪商の娘はあっという間に、女性騎士のように美しく凜々しい所作と、魔法と戦闘力を手に入れたのである。
 両親が何を考えていたかというと、明白で、その美貌と有能さで貴族の若殿を射止めてこいということなのだが……。

 だが、レオニー本人の方は、色恋沙汰には全くといっていいほど興味がなかった。と、言うよりも、貴族の若者から見て、豪商の娘で中途半端に魔法や戦力を持っているというのは、遊び相手の使い捨てぐらいにしか考えられない事を、その身をもってよく知っていたのである。22歳にもなると。
 かといって、せっかく、手に入れた魔力や戦闘力を宝の持ち腐れにするのももったいなくて、それで、士官学校の教員となり、商人の娘だからって舐めてくれるんじゃねえぞと貴族の若造を蹴倒し……たりはしていないが、とにかく、商人の娘といっても、貴族と同じぐらい働けますわよアピールをしていたのであった。
 そうでないと、高額かけて努力してきた自分が虚しいし。

 そのレオニーが、今回のアスランの核弾頭レベルの大暴れ事件で胸を痛めてない訳がない。正直言って、貴族社会で「出る杭は打たれる」の洗礼を受けている仲間同士なんだから。
 それで彼女が、今まで何をしていたというと

 アスラン関係のトラブルの始末書書いたり尻拭いしたりでとにかく忙しかった。
 その上、本人に直接指導したところ、当然ながら貴族の若造は「庶民派? 女? 何それおいしいの?」みたいな態度で全く言う事を聞かなかったのである。

 フォンゼルと仲良くなったぐらいで、やっと、レオニーは、アスランと接触出来るようになる。
 なぜなら、級長のフォンゼルは、レオニーの実力を知っていたのであった。
 貴族社会といえど、目に見える実力を無視するようでは、クーベルフ家の嫡男は勤まらない。それぐらいの常識のあるフォンゼルは、常々、レオニーに上官としての敬意を払っていたのである。
 それに気づいたアスランは、初めてまともにレオニーの実力を知りたいと思った--あたりで1巻が終了である。


 2巻からが、レオニーとアスランのターンである。

 同時に、新しい物語が始まる。
 
 どういうことかというと、士官学校の課外授業の時期が来るのだ。
 毎年、行われる士官学校の課外授業とは、「庶民の生活研修」である。理由は、士官学校は貴族=軍人という前提で作られており、当然ながら貴族の子弟ばっかりが普通である。

 その彼らが若いうちに庶民の生活を何にも知らないまま、軍人になって社会に出て、色々と摩擦やトラブルを起こされると面倒くさい事になるからだ。それで、庶民の暮らしを身近に見る研修、時として研修旅行を行う。
 高学年になると、庶民の暮らしのボランティアなども見に行ったり実際に行ったりすることもある。

 だが、無論、そこは貴族の若殿が、大真面目に庶民の暮らしの中に入っていく訳がない。研修旅行と称して、実家に帰って仲間と徒党を組んで遊蕩にふけるのが関の山である。
 このときばかりはフォンゼルも、帝都シュルナウの実家に領から戻って、親の顔を見て親の用意した地方の親戚周りへ行くという話になっていた。

 ところが、アスランは、研修旅行と行って、実家に帰るようなことはしなかった。かといって、庶民の生活と言っても何をすればいいのか、わからない。彼だって17や8の貴族のボンボンだったのである。当時は。


 それで、クラスに一人だけ残ってぼんやりしているアスランを見て不安になったのがレオニーである。何しろアスランだ。今はぼんやりしているだけだが、活動期になったら何を言って何をして何をされるかたまったものではない。これ以上始末書の濁流に身を任せるのは嫌だ。

「どうしたの、アスラン」
 そういうわけで、レオニーの方から積極的にアスランに声をかけてみた。アスランは実家に帰らないのかというと帰らないの一点張り。みんな帰ってるのに。
 それで、帝都でしたいことがあるのか、と聞くと、やりたいことは山ほどあると言った。何で実行しないのかというと、
「フォンゼルがレオニーに迷惑をかけるなと言っていた」
 などと、友情を重んじる事を言ったのだった。

 それで、レオニーは、課外授業の数週間、アスランと行動を共にすることになるのである。

 庶民の暮らしぶりで、どこに行きたい所があるのかとレオニーの方から聞いてみると、アスランは、なんと「冒険者ギルド」と答えた。
 何でいきなりならず者やごろつきばかり集まる冒険者ギルドに行きたいのか。
 それはうっすらと、レオニーも勘づいていた。
 近頃、魔族の動きが活性化している。
 それこそ帝都の六衛府では対応しきれないほど。
 そのため、庶民は自分の身を守るために、冒険者ギルドから人を雇い、護衛をさせたり田畑から魔族を追い払ったりしているのだ。
 そのため、すこぶる、現在の冒険者ギルドは羽振りがいい。

 この先、騎士/軍人達の好敵手になる可能性は高い。
 そのことを、若いからこそアスランは感じ取っているのだとレオニーは気がついて、思わず微笑んだ。
 早速、レオニーは、アスランが冒険者ギルドに見学に行けるように手続きを整えたのだった。

 そこで、アスランは、生涯の親友を手に入れる事になる。
 彼こそは、リュウ……リュウ俊杰ジュンジエ

あとがきなど
読んでいただきありがとうございます。
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