ないとなう! とは(7)早花咲宮カースィム
ないとなう! 5巻。この巻からいよいよ、魔大戦が開始される。
突如、魔界から魔族の侵攻が始まり、惑星セターレフ……特に神聖バハムート帝国に限らず、全世界の「竜穴」を襲撃し始めるのだ。
「竜穴」というのは何か?
それは、全てを解明された訳ではないのだが、それは即ち大地の精気……星の精気が凝り固まる、神聖な場所とされている。
さながら人体の血脈のように、セターレフ上では星の精気が張り巡らされる竜脈と呼ばれるラインがある。
そのライン、竜脈の要所要所で、地気が集合するポイント、その竜穴では、太古の時代から数々の不思議や奇蹟が現れた。
それは、星の精気、星の偉大な生命力が集まるその箇所は、あまりにも神聖な魔力が高いほかに、星の精気を必要とする全ての異界、異次元と繋がるポイントになっているためである。
言い方を代えれば、高次元である精霊界や天上界と繋がるポイントでもある。
その何が現れるかわからない竜穴を、魔界は足蹴にするように人間界への侵略を開始して、あっという間に、セターレフ上の竜穴の過半数を押さえ込んだ。
今まで、竜穴は、神聖バハムート帝国においては(そして世界中の諸外国においても)、太古の時代に沈没したミヌー大陸の残した数々の魔法技術やアイテムで処理をしていたのだが、どうしていきなり外されたのかは謎である。
人間界側からは理由は様々に推測されているが、実は魔界は、元々存在しなかった世界だというのが大きいだろうとされている。
高次元に広がる巨大な安定した世界、精霊界や、それほど高い次元ではなくても同じく広々として安定した世界である人間界とは別に、セターレフ上では、異界と呼ばれる亜空間、人間界などに比べて小型で不安定な別の時空間が多数存在する。
遙か千年前、人間界を蹂躙していた魔族達は、神聖バハムート帝国初代皇帝ルシュディーと、その「血盟」に代表される人類連合軍によって、その多数の異界をつなぎ合わせて強引に作られた”魔界”に追いやられ、封印されたのだ。
その後は、千年間、ルシュディーの生涯の恋人でありミヌーの神人であるカースィムの作った”ジェネシスの宝器”が封印を守ってきたのである。
その封印が解けられたのは、流石に千年も経つとカースィムの魔法が弱まった事もあるだろうが、千年間、魔族達も何もしていない訳ではなかっただろうということだ。魔族側も、魔法技術や文明の発展があり、知恵を使って封印を解く事に成功したのではないか、ということである。
そして、元々自分たちのものでもあった住み心地のいい人間界へ侵略……というよりも本人達にとっては、元々の世界に帰ろうとしているだけではないかということだ。
だが、人間界の人類は彼らにとっても面白くない存在であるため、家畜にするか滅亡させるかしかないらしい。
ところで、星の生命力が凝り固まる、神聖な場所である”竜穴”。
これが、友原のゆり……現在のエリーゼにとっては、最もファンタジックで地球との違いとを感じる事であるのだが、ここに、現代文明のエネルギー源の結晶がある。
どういうことかというと、巨大で地気の強い竜穴には、時として、”植物とも鉱物とも言えない””巨大な花が咲く”のである。
花水晶と呼ばれる、直径1㎞~3㎞の巨大な花。地球に直せば、富士山ほどの巨大な植物、に見える山のような花。
これは、何千年もかけて竜穴上に生まれる、セターレフだけの花で、鉱物のような堅さを持つが、植物として、日々成長し、やはり何千何万年もかけて巨大な花を咲かせる。花が咲いた後は、無限に地気、星の生命力をエネルギーとして、人類に与え続けるのだ。
花水晶の持つ高度で精錬された魔力をさらに使いやすいものとする事が出来るのは、それ相応の技術と資格が必要とされ、かつては、長命で知能の高い青龍人が百年でも修練を積んでマスターしたとされている。現在ではいくらか簡略化されているが、それでも花水晶の技術者になるには厳正な審査が山ほどあり、並大抵の努力ではかなわないことである。
神聖バハムート帝国が持つ花水晶はカサブランカ。
直径2㎞ほどの巨大なカサブランカが、帝国を守護し、帝国に無限の安全で優美なエネルギーを与え続けているのだ。
のゆりの認識としては、カサブランカをシンボルとする、絶対安全で、無駄のない、電気ガス水道などのライフラインの保証書。暴走する事もなければ星に被害を与える事のない原子力発電所という事になる。
無論、欠点はあって、かつて、5000年ほど前に、文明の発祥地であるミヌー大陸を滅ぼしたのが、最初の花水晶である”蓮”の暴走であったと言う伝説がある。
だが、その後、5000年間、世界各地にある花水晶が暴走したという事例はなく、そもそも何故、蓮の花水晶が暴走したのかが、全く不明なのでる。
だからそれは、伝説は伝説ということなのだろう。
いずれにせよ、のゆりにしてみれば、全く安全で、誰にも迷惑をかける事のない原子力発電、しかも星から無限に供給されるエネルギーというのは、本当にファンタジーマンガやゲームの中でしか存在しないだろうし、そんな素敵で幸せな事はないと思える野であった。
不幸中の幸いというべきか--。
当たり前だが、花水晶を保護するための数々の魔法の封印や科学技術は他の竜穴の何倍にもあがり、花水晶のある竜穴だけは、魔族におさえられることはなかった。
魔族が無限のエネルギーを手に入れようと突撃を繰り返している間に、封印達が時間稼ぎをしてくれて、その間に、人類は反撃に出た。完全な戦争勃発である。
そして中でも凄まじかったのが、帝国のカサブランカの花水晶を守った|早花咲宮《さはなさきのみや》でる。
帝国のカサブランカが一体どこにあるのかというと、実に単純な、誰にでもわかる位置にある。
帝城の真裏。
神聖バハムート帝国の帝城の北方には、霧と森に守られた人口の異界があり(それも初代カースィムが作ったと言われている)、その人口の異界が実質的な封印となり、2㎞に及ぶ花を守っているのだ。その封印の守護者が、早花咲宮であり、代々皇統から生まれるが、皇家の血とともに受け継ぐ名前がある。
カースィム・アル=バタクジー。
初代カースィムと同じ名を生涯名乗り、帝城の北を守護することにより、永遠に神聖バハムートを守り続ける神人の血統だ。
男同士であった、ルシュディーとカースィムの血が混合したことがあるかどうかは秘匿されているが、恐らく、早花咲宮は、ルシュディーへの愛に生きたカースィムの呪いであり祝福なのだろう。
早花咲宮は、魔王軍が異界へと上空から進撃を開始したその途端、生まれた時から出た事のないカサブランカの異界から初めて姿を現した。
その美貌と凜々しさは、目にしたものは生涯忘れる事はないと言われたほどである。
だがその、初代皇帝さえ惑わせた美しさを見せたのも一瞬--。
曇天全体が雷撃で閃き、誰もが目をくらませた、その電光石火の一瞬で、魔王の軍は全て地面にひれ伏していた。全ての魔族が昏倒し、息絶えていた。
全く一瞬の出来事で、カースィムだけが状況を把握している中、彼は何も言わずに封印された結界の中に戻ってしまった。
いずれ、神人カースィムの強さと気高さ、美しさは確定していいところである。