ないとなう! とは(8)血盟の家
カースィムの他に血盟と呼ばれる家は、あとは四つある。皇家。アル=ガーミディ。
ルシュディーの親友であった青龍人の拳士。
サディーク・アル=ダウサリー。
常人でありながら尋常ならざる弓手を持った女性。
ナジュラ・アル=サイヤード。
地獣人、しかも女性でありながら医は仁術を体現した白魔道士。
カウサル・アル=アッタール。
千年の間、血盟の家は、同じ名前を持つ筆頭を立てて、皇家と帝国を守護する導き手であった。
確かにこの七代は、風精人のビンデガルド宗家から、皇后が出て地獣人を中心として差別問題が噴出しているが、本来は、血盟の家が帝国の政治、軍事に強い発言力を持ち、それによって、種族のパワーバランスが保たれているのである。
そうなると、他の紅魔人や、空翼人の伝統や文化が問題になってくるが、青龍人や地獣人の地位が確保されると、釣られて紅魔人や空翼人も上がっていたため、かつてはそれほど大きな軋轢はなかった。少なくともそう言われているのだ。
ちなみに、ここまで書いてこなかったが、アスランの担任であるレオニー・ミュラーは、実は空翼人で、天使を思わせる羽根と金髪を持っている。彼女が貴族の若殿の心を射止められなかったのは、帝国でもかなりの少数派でる空翼人への偏見がなかったとは言い切れない。恐らく、上流階級を占める風精人ならば、まだしも芽はあったのだ。
種族の差別問題の事については、戦争前夜の県にも現れている。
魔族側の動きが活性化し、いずれカースィムの封印が解けるかもしれないことを、地獣人の皇后エンヘジャルガルと、その娘アルマ、そして何よりも老いた巫女で上皇后アルタンツェツェグの妹ナランゲレル姫は、地獣人の霊力の中でも特殊な予知力を持っていた。
そのため、彼女達は魔王が来るという予兆を感じ取り、帝国の危機を乗り越えるために、封印を強化することや、軍事力増強、国を守るためにすべきことを進言した。
皇帝であるアハメド二四も、予知力こそなかったが身内の言う事を信頼したのだ。
だが、風精人の貴族達は口をそろえて身内びいきと思い込み、逆に地獣人の逆差別で、さらに差別を助長する事になるだろうと皇帝を笑ってたしなめた。皇帝派であるキュヒラー伯爵をはじめとする、信頼おける貴族でさえが、怪訝そうな顔をして皇后の予知を疑ったのである。
アハメド二世は懸命に風精人の大貴族達へ説得を行ったのだが、風精人には元々予知力はないので、誰も相手にしてくれない状態が続いた。
それで、女性皇太子であるアルマの方が気を回し、自分の私兵である甲・シュヴァルツに、カースィムに渡せるジェネシスの宝器を探索してこいと命じていたのである。
ジェネシスの宝器、その神聖な装備品を血盟の家から提出っせようにも、千年の間に創世の剣のうように流出してしまったものもあるし、血盟の家は、「同じ血盟である皇家への忠誠心は高い」が、初代と神人を崇拝しているため、ガザル自治区から出てきた地獣人へはそんなに関心が高くないのだ。
唯一、地獣人であるカウサル・アル=アッタールだけは、帝城の御典医として仕え、皇后エンヘジャルガルや皇太子アルマとも親しくしているが、一子相伝されてきたジェネシスの宝器を差し出すかというとそれは出来ないらしい。
それで、アルマは、忍びを使って血盟の家や散逸したジェネシスの宝器の周辺を極秘調査させ、無理矢理奪い取らせる訳にはいかないが、隙を見てなんとか皇帝へ提出させるように仕向ける方法を考えていたのである。グスタフの場合は、あんまりだったので、奪ってこさせうようとしたが。
実際に、魔王軍が襲来した際。
血盟の家は、ジェネシスの宝器を手に取って奮闘するが、帝国各所の竜穴の過半数を先手で押さえられたために、想定外の苦戦を強いられる。
ジェネシスの宝器は、本来、星の息吹、星の地気により精製され、星のエネルギーを循環させる事によって力を発揮する。
それに対して、魔王軍が”竜穴”を押さえているため、竜穴の魔力を利用してぶつけてくるのだ。
星のエネルギーVS星のエネルギーで、力を中和されてしまったのである。
それが、今回、魔王軍が竜穴を押さえ込んだ最大の理由だったと思われる。
力を半減されても、血盟の家は決して挫ける事はなかった。
その勇猛果敢にして知恵と工夫を凝らした戦法は、千年前と変わる事なく、国民を守るために奮戦を続けるのである。彼らが血を吐く努力をしなければ、他の竜穴もたちまち押さえられ、人類は魔族に食い散らかされていた事であろう。