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ないとなう! とは(16)ネット上の現実

 ここまでのことを、エリーゼ……エリザベート・ルイーザ・フォン・アンハルトは、自室でノートに書き取りながら、思い返していた。

 兄龍一と一緒にはまり、大好きだったないとなう! である。親子心中で死亡し、転生して15年も経っているが、意外にもよく覚えているようだった。

(私、オタクっていえばオタクだったのかな……?)

 実際には、廃部寸前の陸上部で、よく走り込みをやっていたし、実のところ800mで地方大会で4位に食い込んだ事もある。侯爵令嬢となると、滅多に全力疾走するような事にはならないのだが、頭が体の動かし方を覚えているため、走ろうと思えば走れるらしい。
 運動不足さえなければ、前世で手に入れた走りの技術は脳(?)が覚えているので出来るようだ。
 女子陸上部は、友原のゆりの通っていた中学ではマイナーで、部でいられるぎりぎりの5人しかいなかった。だがそのぶん、先輩後輩の分け隔てはなく仲はよかった。
 部活帰りに部員の子とおしゃべりして遊ぶ事が楽しみで、やっていたようなものだし、部員の子と日頃何の話をしていたのかというと、流行の動画や漫画や、スイーツや教師の噂話(悪口)などで、本当に他愛ない事ばっかりだった。

 友原製薬が大炎上を起こすまでは、本当にそういう平和な毎日だった事を思い出す。
 未だに胸が痛むが、エリーゼは頭を振って、その痛みを打ち消した。

 オタクというにはあまりにヌルイのだが、思ったよりもしっかりと善哉(同人漫画家)の漫画の内容を覚えている自分について、エリーゼは「私はオタクだったんだ」と勝手に自認した。本当のオタク達が聞いたら、思わず頭をは叩いていたかもしれない。
(本当のオタクとは何なのかという件については割愛する)

 エリーゼは、必死に考えこんで、その頃のないとなう! の展開を思い出すうちに、次第に、ネットの事を思い出した。
 ネット炎上が原因で、親子心中したようなものだから、そこは触れたくなかったのだが、そんなことはいってられない。
 なぜなら、善哉が、インターネット上の「ないとなうネタ」を拾う事はたまにだがあったからだ。
 それが顕著だったのが、ここまで書いてきたレオニー・ミュラーである。

 実は、ないとなう! 原作には、レオニー・ミュラーはNPCとして存在しない。
 だが、アスランの出身であるとされる、士官学校に特徴のよく似た女性教員はいる。レオニーとは違う名前……確かレオノーラと言うそうだ。
 レオニーと同じ空翼人エアリーで長い金髪を一つに束ねており、黒い士官学校教員の衣装に身を包んでいる。そして何よりも特徴的なのは、右目に黒い眼帯。
 そう、レオニーは、隻眼の女性なのだ。
 作中では、レオニーは隻眼でも十分に戦闘をこなせるようだが、その理由が明らかにされていない。それだからこそ、「萌える」という話はネット上で頻々と聞いた。
 善哉は、そのネタに、”呟き”などで反応したり、噂をしている掲示板に降臨したりすることは絶対になかったが、ないとなう! 作中に、「あれ……?」と読者が思うようなくすぐりを入れるのは、好きな方だったらしい。龍一の話だと、そうである。

 善哉は、自分のHPと同人誌を連携させて活動している古いタイプを取っているネット同人古参兵だ。投稿サイトなどに、宣伝用のイラストをかくことはあるが、漫画をかきおろしたりは絶対にしない。
 HPに日記はないし、漫画やイラスト、小説、時としてネタ動画などの作品がみっしり詰まっている。

”呟き”の方も、サイトの更新の宣伝と、たまにアンケートをとるのみ。

 そういうふうに固く自衛することによって、個人サークルとして生き残ってきたらしい。情報を最小限意外出さない事で生き残ってきた実力派だ。
 それでどうやって、販路をおさえることが出来るほどの人気を得たのかがかえって謎だが、同人の個人サークル同士では、仲が悪くないらしいのだ。本人は、offでは愛想が悪いわけではないらしい。
 同じ大手サークル同士でのつきあいは広く深くあるということは、確認出来る。
 そして、ネタとして、本名も性別も、顔も不明の人として扱われている。単なるお約束であるらしい……。
 公に出なければならないような場合は、弟と呼ばれる男性が代役に立つ。
 それで、余計に、善哉の正体は女性ではないかと根強い噂があるわけだ。

 そして、これまで述べてきた通り、善哉が描くないとなう! ではレギュラーの女性はレオニーのみ。西部編で、主人公アスランが、「レオニーの過去の恋人の数」などを気にし始めるシーンが入り始めた。

 それに対するネットの反応は様々で、応援する人間も多いようだったが、それよりも、女性ファンに「……」、もしくは明らかなブーイングが広がった。
 男性ファンも、善哉が、レオニーをアスランと同じぐらいかそれ以上の思い入れを持って育てる気なんじゃないかという見解が広がった。

 善哉がレオニーへ、ひとかたならぬ思い入れを持って、今後、隻眼の理由だの過去の恋人の事などかくんだろうか、とのゆりも思ったぐらいである。それに対して賛否両論だったが、やはり、女性レギュラーがレオニーしかいないため、どうしても人気は一極集中してしまっているようだった。

 レオニーの人気が高まるに従って、善哉の宣伝用の”呟き”に、突撃する特攻兵が日増しに増えていった。
 アンケート欄もレオニーの名前がよくも悪くも増えていく。
 それをどうやら、善哉は、非常に喜んだらしかった。そして、それまで全然やらなかったことをやったのだ。

 善哉が初めて、”呟き”上でファンサービスを行った。それはなんでも、アスランとレオニーの4コマ漫画だったそうである。それを、会社員の龍一は見られなかったし、学校に行っていたのゆりも確認出来なかった。

 騒ぎが起きたと聞いた時には遅かったのだ。

 その、アスランとレオニーの4コマ漫画を投下したことにより、善哉の”呟き”アカウントはとっても素敵にこんがりと焼け焦げてしまったのである。

 それ以上の延焼を防ぐ前に、善哉のスタッフとおぼしき(おそらくは弟と名乗る男性)が素晴らしい手際で鎮火させたので、アカウントなどは事なきを得たが。
 そこから益々善哉のガードは固くなってしまった。
 アスランとレオニーのネタについては、コアなファンは小躍りしているが、アンチは控えめにいって大活躍だったそうだ。

 その焼け跡を学校帰りに確認し、ネット上の”呟き”やら、匿名掲示板やら投稿サイトやらなどで見てしまって、のゆりは本当に(゚Д゚)←こういう顔だった。
 遅くに帰ってきた龍一に飛びついていって、「なんだったの、今日の善哉??」と尋ねたところ、龍一は苦笑い。
「炎上というやつで、ネットではよくあること。だからお前に、MMOや”呟き”のアカウントはまだ早いんだよ」と龍一が教えてくれた。


 その翌年、友原製薬は大炎上するのである。


 そういう記憶をたどりながら、のゆりは、ないとなう! に自分が何故転生しているのかまた考えた。所詮、自分はモブである。モブに、何が出来るというのか……。
 それでも、恩のある養父母の力にはなりたいと思う。これ以上、親や家族を失うのは嫌だ。

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あとがきなど
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