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今、ここに生きる星-転生したら養女モブ!-


第一章 幽霊少女は英雄を救う


第十一話 どこにでもある花による死2


 そこに--。
 書斎机の手前の窓に、鳥が飛来した。
 カケス。
 青に黒のストライプの入った羽を持つ、30㎝足らずの小型のカケスが、しきりに窓をつついている。

 カケスの種類をアスランは見て取り、窓を開いて鳥を中に入れた。
 弾正台が、カケスを使う事は知っていた。あらかじめ、ハインツから教わっていたパスワードを唱えると、カケスもまた、変身して一通のメモの走り書きとなった。

--大至急、弾正台に来られたし。厨房長死亡。

 そうとだけ、書いてある。筆跡は恐らく、ハインツのものだろう。
 それだけで、事実はわかる。
(口封じかッ……)

 アスランは瞬間的に美しい顔をゆがめたが、すぐにメモの走り書きを握りしめた。彼は書斎の隣の寝室に向かうと、即座に略式の軍服に着替え、メモを胸ポケットに突っ込むみ、外套を肩に引っかけて、自分の部屋から早足に飛び出ていった。
 大貴族であるアスランは、平時は近衛府の中将である。



 死人に口なしとはよく言ったものである。
 厨房長は、元々、思慮が足りなく口が軽そうな男であった。
 厨房長ジャン・マイヤーとアスランには何の接点もない。逆に、エリーゼが、厨房の前で「悪徳大臣に命じられた」と、厨房長が口を滑らせている事を聞いている。

 そのため、アスランは、ビンデバルドなど、貴族か、--それこそ実家が、英雄として目立ちすぎた彼を暗殺しようとしていると読む事が出来たのだ。

 そのジャン・マイヤーが、弾正台に捕まった日の翌日の明け方に、死亡。口の軽い男に生きていられても、相手方には、百害あって一利なしなのだろう。わかりやすい話である。

 だが、あの弾正台の警備をどうやってかいくぐって、暗殺したのか……。
 それが、近衛府の軍人として、酷く気になった。

 弾正台だって警察機構だ。バカではない。
 それこそ、日頃から鼠一匹通さない警備と監視の目があるだろうし、アスラン暗殺未遂の昨日の今日で、監房の周りは、護衛も兼ねての役人がぴったり張り付いているはずだ。

 弾正台は、プロの警察なのである。
 その警備網に、何があったのかがわからない。
 弾正台にも魔道士、魔法使いはいる。その魔法の手妻を切り抜けて、器用に、監房内のジャン・マイヤーを殺す手口があったということになるのだ。

 その手口をまねられたら困るのは、アスランだって同じである。彼自身の身を狙われる事もあるだろうが、何よりも、彼は近衛……「皇帝の親衛隊」の一人であった。親衛隊の仕事に、皇帝の警備がないわけがない。
(どういうことなんだよ!)
 焦りと苛立ちを感じながら、アスランは、機動馬ヴィークルで弾正台にまっしぐらに走った。

 弾正台に着くと、すぐにハインツが直接出迎えに出てきた。
「ああ、ジグマリンゲン卿。待っていました」
「アンハルト卿、このことは、外部には?」
 アスランは素早く辺りを見回しながら、ハインツに言った。
 ハインツは、首を左右に振った。
 今のところ、ハインツが選んだ関係者以外に、弾正台内の不手際を漏らす気はないらしい。
 アスランはなんといっても、ジャン・マイヤーに殺されかかった張本人であるし、大貴族であるから特別に教えたということらしい。

 ハインツとアスランは視線で会話をし、ハインツに促されるままに、アスランは、彼とともに死体のいる監房に向かった。
 ハインツは、ジャン・マイヤーの死体をまだ動かしていなかった。
 そこでは、数人の役人が警備を固め、ハインツの許しがない限り、誰も中を見る事も出来ないようにしていた。

「死因は?」
「コンバラトキシンなど、鈴蘭に入っている毒だ。相当、苦しんだはずだが、夜半の警備の役人からは何も証言が上がってこない。気づかなかったと言っている」
「……?」

 コンバラトキシンの他にも複数の毒物が上がったが、どれも、鈴蘭の猛毒であった。
 全草からとれるあらゆる毒……。
 アスランがよく見ると、床に嘔吐のあとがある。
 その脇にある酷い形相の遺体。

「嘔吐だけではない、頭痛、目眩、血圧低下、そして心臓麻痺……コンバラトキシンの猛毒は酷いもんだ」
 ハインツはため息をついた。

 アスランも、シュルナウに居住して数年になる。鈴蘭の取り扱い方と、その毒性の強さについては知っていた。ただ頷くしかない。
 アスランは、何の関係もない自分を、殺そうとした厨房長に向かって目礼し、ミトラ十字を切った。魂だけでも、安らかに。

 だが、そこで感傷は立ちきり、彼はハインツの後に続いて、遺体のそばにかがみ込み、何か死亡の手がかりはないか探し始めた。

「このコップは?」
 遺体の隣にそのまま転がっている小さなコップを見て、アスランがハインツに尋ねた。
 ハインツは頷いた。

「どうやらそこのポットからくんだ飲み水を飲んで、こうなったらしい」
「すると--?」

「それが、ポットの水からも、コップからも、コンバラトキシンに限らず、何の毒物も発見されていない」
「発見されてないのですか?」
 アスランは鸚鵡返しにした後、すぐにハインツに聞いた。

「魔法、ということですか?」
「恐らく、そうなる」
 恐らく、という辺りに重々しさをこめて、ハインツが言った。

 まだ断定できないが、魔法というラインが強いらしい。
 専門の過去視や、予知者を使えば、相当、情報を洗い出せるだろうが、その過去視を妨害する魔法というのもこの世にはある。どんどんややこしくなってしまう場合もあるのだ。

 魔法による暗殺を、魔法で調査するには、冷静さと常識が必要になってくる。

「魔法を使った陰謀だとすると、面倒ですね」
 ハインツは返事をせずにただ頷いた。

 魔法を勉強し、習得出来る者は、セターレフにおいては大体決まってくる。王族、貴族、権力者--あるいはそこに近い、大商人などである。
 なぜなら、魔法の習得にはそれぞれのペースがあるのだが、最初のうちは、魔法を帯びたアイテムや、ゆかりのアイテム、薬品などが大量に必要になり、それが非常に高額なのである。
 成長の段階に従って、アイテムを使わなくてもよくなってくるが、それでも必要な時は必要になる。それで、基本的には、魔法を使える人間は、王族、貴族、大商人などの、金に困らない階級の人間が多いのだ。

 つまり、今回の陰謀の人間は、金と権力と魔法を使いこなせる、曲者という事が、エリーゼの発言以外でも確実な路線となってくる。
 それは予想の範囲内だったが、出来れば、毒殺ぐらいしか手段のない人間による、単純な事件であって欲しかった。

「ハンナというメイドは?」
 アスランはさらに、ハインツに尋ねた。ハンナは、ジャン・マイヤーに頼まれて、毒料理の皿を彼に運んだ女性だ。まだ若く、赤子を抱えた母親でもある。

「取り調べをしてみたが、本当に何も知らずに料理の皿を運んだだけというのがはっきりしている。それを、同僚のヨハンという男が保証した。ヨハンは、ジャン・マイヤーが脅されて、料理に毒を盛ったということは知っていたが、彼の言う悪徳大臣とは誰の事かは聞いていないと言っている。しらを切っている様子もない」
 ハインツは嫌そうな顔になった。
「口が軽い方ではあるんだろうが、中途半端に頭がいいというか……そこまで話すなら、大臣とやらの名前を白状してくれてもよかったんだが」
「”俺の名前は何があっても出すな”と、そう言われていたんでしょう」
 アスランは肩を竦めた。
 そういうふうに言い含められていたので、昨夜はハインツの尋問にも耐えきったのだろうが、朝になったら死体になっていた。
 口の軽重による信用というものが、どういうことか、わかるというものである。

「ヨハンという調理人の調査も必要になるのでは?」
「無論だ。既に、弾正台に呼んでいる」
「……」
 アスランはまた、考え込んだ。
 自分を狙っている人間が、古い因習としがらみを持つ、高度な魔法を使いこなす貴族達だとは思う。
 ならばその陰謀を暴いて、覆す方法があるとしたら、それはなんなのか。

「頼む」
 そのとき、ハインツが他の役人に、透明な袋にコップとポットを入れて手渡しているのがわかった。

 とりあえず、証拠品になるものは全て押収し、調べられる限りは調べ尽くすのだろう。

「ジグマリンゲン卿、これから、身内の捜査が始まるんだが……」
「わかりました。俺は、近衛府に戻ります」

 弾正台の身内のものが、ジャン・マイヤー暗殺の下手人を手引きしたのかもしれない。そういうわけで、身内の身元や調査がこれから行われるのだろう。
 そこに、近衛府の人間がいるわけにはいかない。

「今日のこと、大将に話しても?」
「それは、かまわない。だが、うかうかとすると、人の事は言えなくなるぞ」
「……そうですね」

 アスランは、考え深げに頷いた。そうして、アンハルト侯爵の好意に例を言い、弾正台を後にした。

 帝城の中にある、弾正台のごく近くに、近衛府の建物がある。
 アスランはまっすぐにそこに向かった。
 彼の直属の上司、近衛府の大将は、ベネディクト・ベッカーと言い、四十絡みの常人オルディナである。そうである以上、風精人ウィンディのようなたぐいまれな美貌や魔力、魔法の技などはないが、不断の努力による戦闘力と、卓越した頭脳を持つ、人間味溢れる男であった。
 アスランにとっては、珍しく信頼出来る上官である。
 自分の暗殺未遂事件のこの顛末を、報告しない訳にはいかないだろう。

 無論、頭のキレるベッカーの事だから、既に弾正台の近辺に諜者を飛ばし、状況を把握している事もありうる。

 だが、報連相を密に取っておいて、損のない上司であるので、アスランはそこは素直にベッカーの方へと歩を進めていった。

 近衛府は、左近衛府、右近衛府と二つある。
 そのほかにも、帝都を警護する左右の衛門府、シュルナウに住む皇族、貴族を護衛・警備する左右の兵衛府があり、一般に六衛府と呼ばれている。

 それとは別に、神聖バハムート帝国には兵部省があり、軍事防衛を司っている。兵部省の中に、陸海空軍があるのだ。

 近衛府の役割は、皇帝の親衛隊であり、皇帝の手足となって戦い、職分を果たす事である。
 左右の近衛府には、必ず大将が1名、中将が3~4名、少将が3~4名と続く。
 アスランは、左近衛府の中将で、ベッカーに継ぐ責任と発言力を持っていた。

 彼は、北方のノイゼン港で生まれ育ったため、生粋のシュルナウ貴族ではない。
 魔大戦勃発直前の、19歳の時に海軍士官学校に転入してきた少年である。
 いきなりノイゼンから転入してきた気が強く自立心の激しい青年はすぐに様々な小事件を起こしたが、そうこうしているうちに魔族が侵略戦争をふっかけてきたため、直属の上官と各地を転戦、いつの間にか士官学校を卒業した扱いになり、そのまま魔族を倒す事により出世していったのであった。

 元から、北方では代表的な貴族、ジグマリンゲン家のポテンシャルもあったため、出世はかなり早かっただろう。

 彼は、魔大戦において、着実に魔族を倒す事の出来た歴戦の勇者であり、他にも魔王の首級をあげたという揺るがぬ事実を持っているからこその英雄であった。
 そのため、彼を認めたくないという古い貴族達は少なからずいる。--特に、帝都には。

 庶民から無敵の人気を誇るからこそ、古いシュルナウの貴族達が、彼を目障りだと思い、外部の異分子を排除しようとするのだろう。それは薄々勘づいていたが、ここまではっきりと、新年早々、悪意を向けられるとは思っていなかった。

(俺も、甘かったな……)
 そこは、反省するしかない。だが、ここでむざむざと破れる気はない。
 自分を汚い手口で暗殺しようとした人間を洗い出し、反撃する。
 新年最初の彼の仕事は、それだった。

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あとがきなど
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