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今、ここに生きる星-転生したら養女モブ!-


第一章 幽霊少女は英雄を救う


第四話 幽霊少女と挨拶回り


魔大戦ーー。

  ハルデンブルグ伯爵とともに、アンハルト侯爵も、戦場に出撃していた。
 作戦で殉職したのはハルデンブルグ伯爵クラウスだが、アンハルト侯爵ハインツも、ある意味背中合わせで作戦を実行しており、自分が死ぬかクラウスが死ぬかはまさしく時の運という状況だったという。

 クラウスとハインツは、戦友であり親友であり、領地が隣同士のライバルでもあり幼なじみでもあった。

 そのクラウスが、当たるか当たらないかのくじ運のようなもので、死んだ。ハインツは考える事もあったが、彼が残した一粒種の姫を自分が引き取って育てる事にした。

 政治的な思惑ももちろんあったが、自分たち夫婦にはいつまでたっても子どもが産まれず、妻のラーエルももはや諦めているということが大きかった。ラーエルは若い頃女の子が欲しい、と口癖のように言っていたし、うってつけのようにエリザベート・ルイーゼは女の子だった。

 話はトントン拍子で決まり、エリザベートは、戦勝(両親死亡)の後、一ヶ月後には隣のアンハルト侯爵家に現れ、これからお世話になりますと挨拶をした。

 ハインツはエリザベート……エリーゼを大切に扱うと決めていた。今、自分が生きていられるのは、言い方は悪いが、あのときクラウスと、同行していた嫁のディアナが殉職するような戦い方をしてくれたからである。もちろんそれを口に出して言うことはしなかったが、エリザベートにはよい教育を与え、良縁を与え、幸せにしたいと思っていた。それが戦友クラウスへの、何よりの手向けだ。

 元から女の子が欲しかったラーエルには異論はない。女同士で水入らずの楽しみをたくさん作りたいと思っていた。良縁選びには絶対口を出して、一番いい縁を私の目で決めると言った。

 エリーゼは、そういう養父母の期待に応えたい気持ちはあったが、前世で一家心中、現世で両親戦死という衝撃はなかなかのもので、部屋から出る事がほとんどなかった。それでも、何度かは家族団らんのほのぼのとした時間を持つ事はあった。週末の晩餐会には必ず顔を出して、失礼な態度を取らないように心がけた。
 そういうわけで、まだ本当に打ち解けた訳ではないのだが、養父母のエリーゼに対する心証は、結構よかったらしい。そのため、エリーゼは高校に通えるようになったのである。地方の貴族学院ではなく、帝都の帝国学院高等部。
(死ぬときは、高校に行きたいって思ったけれど……こんな事になるなんて。異世界の高校……魔法とか教えるんでしょ? 変なトラブル起きなきゃいいなあ)

 エリーゼは根暗にも、そんなふうに捉えていた。前世の現代日本で、中学までは出ているが、高校に行った事はないので、不安が大きい。ラーエルも、侯爵夫人の仕事があるんだし、きりのいいところでデレリンに帰るだろう。そうしたら、エリーゼは、シュルナウに使用人たちとだけ暮らすということになる。

 だがそれも、親心あってのことだし……とぐるぐる考えているうちに、時はたち、あっという間にエリーゼのシュルナウ行きは決まった。
 年の暮れに、|機動馬《ヴィークル》の馬車でアンハルト侯爵一家はシュルナウに移動。シュルナウにあるハインツの別邸に、エリーゼは引っ越す事になった。一月には帝城で盛大な新年パーティがあるので、それに親子そろって出席し、ハインツは帝都で侯爵らしい仕事をして、一月中にデレリンに帰る。ラーエルはエリーゼがシュルナウの生活になれるまで付き添い、四月の入学式を見届けたらデレリンに戻る、という算段であった。

 いずれ、今年の帝城での新年パーティは今までにない規模になると、随分前から噂されていた。ハインツもラーエルも、それは期待しているようだった。一人、目立ちたくないエリーゼだけが不安を抱え、ため息をついていたのである。



 新年パーティはシュルナウの王城で、華やかに開催された。
 バハムート暦にして904年の事である。
 五年に及ぶ魔大戦を乗り越えた上での新年である。

 帝都ではあらゆる場所に国旗が掲げられ、朝から花火が打ち上げられ、美しい花とテープが通りを乱舞していた。

 メインストリートから正面の大門をくぐると深紅のカーペットが敷き詰められており、その上を歩いて行けば、パーティ会場に着く。

 会場は入り口から向こうの壁が目がかすむほど遠くにあり、磨き抜かれた床は鏡のように輝いており、その上にきちんとセッティングされた丸テーブルが所狭しと並べられ、よい匂いのする花が活けられていた。

 テーブルとテーブルの間には観賞用の花やグリーンだけではなく、珍しい南洋の熱帯魚や亀などを入れた水槽がところどころに置かれている。それが、テーブル間のちょっとしたプライバシーを守っていた。そのほかにも、戦で活躍した軍用犬が表彰のメダルを首にかけながらテーブルの脇に座っていたり、庭の方では名誉の軍馬がやはり着飾らされて立っていたりした。

 中央はダンスホールになっており、その周りに楽隊が並んでいる。楽隊は古式に則り賑々しい派手な装いで、かしこまりながら次々に華麗な音楽を奏でていた。

 戦勝を祝い、無礼講と言うことで、アンハルト侯爵家が着いた時にはすでに大勢の男女がパーティを楽しんでいた。

 エリーゼたちは、正午より一時間程度前に入場した。

 バハムート暦は、どういうわけか、エリーゼの知っている現代日本の暦に酷似しており、一日は24時間で、秒、分、なども同じ数え方をする。一年は360日、一ヶ月は30日きっかりだ。現代日本の漫画家が作った漫画の中なのだから、当たり前だが、世界観は妙に共通項が多い。そういう意味では、エリーゼはアストライアになじむのは早かった。

 問題は人間関係で、前世の事があって、人間不信のケがあるエリーゼは、こういう場面が特に嫌いだった。だが、恩義を感じている、アンハルト侯爵に恥をかかせるわけにもいかない。ハインツの後をついて歩いて、ラーエルと一緒に侯爵家の知人友人に頭を下げておとなしい挨拶をした。

 どうしても緊張してしまうので、ぼそぼそと小さい声になってしまうのだ。

 ハインツは、当然ながら、エリーゼを帝都の英雄たちに見せる気でいた。見せびらかすというほどではないが、あのぎりぎりの作戦で戦死したクラウスの一粒種ということで、彼のおかげで俺たちは生きているというような話をしたいようだった。そしてあわよくば、若者との良縁……である。ちなみに、バハムートでは女子の結婚年齢は15歳からで、適齢期は18歳~24歳ぐらいである。三年後には嫁に出すつもりで、相性のいい英雄がいないか、ここで選ぶ気もあった。妻のラーエルも当然同じ考えである。

 わかっていないのは、肝心のエリーゼだけで、何しろ彼女の常識は、晩婚化の進んだ日本であるから、自分などまだまだ子ども中の子ども、大人の相手になどならないと思い込んで、のそのそとハインツの後を着いて歩き、ハインツが挨拶したあとに、ぼそぼそと、「エリザベート・ルイーゼです……よろしく……」と消え入りそうな声で挨拶をした。

 エリーゼは、こういう場所が元から苦手なのだ。

 会場を順繰りに回って、貴族の長老たちに面識を作ろうとするアンハルト侯爵夫妻。エリーゼの方は養父母の言うとおりにおとなしく……おとなしすぎるほどの様子で、ついて歩き、まずは大貴族の公爵やら大臣やらの老人層(ターゲットは老人の周りにくっついている若者)と話し、次に、本命の、ともに戦った若い英雄たちの方へと向かった。

 エリーゼはその頃には、だんだん、惰性になってきていた。何しろ、漫画のないとなう! にはほとんど出てこなかった、大貴族の老人たちと、ハインツの話は、政治や軍事についての噂話ばかりで、ラーエルは常識のようだったが、エリーゼには何がなんだかわからず、聞き覚えの内呪文をぼんやり聞いているような感じだったのである。その周りに従者のようにひっからまっている若者たちは、舌をかみそうな外国ネームで、名前を覚えるのも一苦労。

 そんな事をした後に、次に「一緒に戦った英雄たちの方へ行くよ」と言われると、エリーゼは、どうせ同じ事なんだろうと思って、のっそりとついていった。

「まずは、アスランだな。魔王を倒した勇者」
「……はい?」

 ハインツの言葉に、エリーゼは目をぱちくりと瞬いた。全くの不意打ちだった。アスランを魔王へ向かわせるために、作戦指揮官となり、さらに実行して死んでいった父クラウスと、母ディアナ……。

「アスランだ。エリーゼ、彼はクラウスの縁者なんだから、ぼんやりしてないで、しっかりと相手と話しなさい」
 ハインツは半ば叱咤するように、そう言った。
 ラーエルもうなずいた。
「…………」
 エリーゼは何も言わずについていった。胸中は複雑だった。だが、確かに、顔を見たい気はした。恨みはまるでない、彼のおかげで、魔王は倒され、人類は守られたのだ。だが、父は……アスランの中に何を見て、死んでもいいと思うような戦闘を行ったのだろう。立派に戦って死んだとは聞いているが。母も。
 ダンスホールに近い丸テーブルの方へ、ハインツは妻子を連れて歩いて行った。
 そこでは、二十代半ばぐらいの男性たちが、つるんで談笑していた。なんというか、本当に、「つるんで」としか表現出来ないような気安さと砕けた感じがあった。

 エリーゼは、胸が高鳴るのを感じた。

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あとがきなど
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