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今、ここに生きる星-転生したら養女モブ!-


第一章 幽霊少女は英雄を救う


第三話 幽霊少女と転生事情2


 のゆりが、「友原のゆり」の意識を取り戻したのは、魔大戦開戦より数年早かった。

 のゆりがエリザベート・ルイーゼとして生まれ変わったのは、神聖バハムート帝国、ハルデンブルグ伯爵領。
 隣のアンハルト侯爵領のデレリンから、馬車で半日ほど離れた地方都市ビエルネスである。

 伯爵家に一人娘として生まれたエリザベートは、すぐにエリーゼと呼ばれ親しまれるようになった。
 実際、愛嬌のある娘で、両親からは溺愛に近い愛情を受けた。溺愛したくとも、次に男子が生まれない限りは、伯爵の位を継ぐ可能性があるのだから、躾は厳しくしなければならなかったらしい。

 ところで、先に書いた通り、アストライアにも、風疹や水疱瘡、子どもがかかる致し方ない病はあるらしい。
 エリザベートは5歳の時に、風疹にかかり、大変な高熱を出した。

 そして生死をさまよい、夢うつつの中で前世の記憶を取り戻したのである。自分が友原ともはらのゆり。
 ガスで一家心中し、苦しんで死んだ中学生だったのだと。

 最初は訳がわからなかった。のゆりの記憶と五歳のエリーゼの記憶がごちゃ混ぜになり、しばらくは奇異な言動もあったが、それは風疹のせいで変な幻覚でも見たんだろうと言うことにされた。ハルデンブルグの両親達にはそう思えたらしい。

 一週間もすると、エリーゼは、自分が異世界に転生したという事を理解し始めた。
 彼女は、ネット炎上で相当調べ物をした際に、気分転換にネットで面白い読み物を読む事もあった。それで、「異世界転生」という概念を得ていたのである。

 もしかしてと思って、両親の会話に耳を澄ませたり、書斎に勝手に入っていって読めるものを読んだりしてみたところ、そこは……

 大人気漫画「ないとなう!-National Salvagionー」に描かれる世界、神聖バハムート帝国であることがわかったのである。

 神聖バハムート帝国、我が星アストライア、アル・ガーミディ王家、爵位を表す単語の数々、とどめが魔族の存在だった。神聖バハムート帝国では「異界」という亜空間から襲来する魔族がスタンダードな存在なのだ。
 魔族は人類と生態系が違う。狩りの感覚で人間を襲ってくる。それを討伐するためにも各地方に騎士が存在し、父親のハルデンブルグ伯爵は騎士であるから当然、何度か、魔族と戦闘を行って負傷して帰宅することがあった。
 その際に、幼いエリーゼに、やや誇張した自分の武勇伝を語って聞かせたりもした。

 その魔族の特徴を聞いたりしているうちに、エリーゼは確信した。
(間違いない! ここ、ないとなう! の世界だ。私、漫画の世界に転生しちゃったんだ!! ……でも、どうして? ネットの読み物だと、大抵、ダ女神とかに、任務を言い渡されるものなにに、私、どうしてないとなう! に?? 何がなんだか、わからない)

 だが、いずれ数年のうちに、魔大戦は始まるだろうし、その際に、……

 モブであるハルデンブルグ伯爵が、どうなるかが、わからない。

 そう。最初、エリーゼが大混乱したのはそのためである。エリーゼは、異星アストライアには転生したが、ないとなう! の重要登場人物の誰一人にもかぶっていなかったのだ。異世界転生ものをいくつか読んで事のある女子中学生の頃、転生者には何らかの使命がある、事情がある、というパターンばかりを読んでいた。それで、自分も”エリーゼ”として転生したのは誰かの超越的存在の思惑、物語の意図があると思い込んだのである。

 色々考えてみても、それがどういうことなのかわからない。
 何故、自分がこの世界に転生してきたのかーー。

 さらに、奇妙な事に気がついた。MMORPGの名作”アルティメットファンタジー”のメディアミックスにあたる、大人気漫画ないとなう! は、のゆりの記憶にある限りでは、現在25巻まで出版されているが、連載中なのである。完結してないのだ。
 計算通りで行くのなら、エリーゼは5歳。25巻出版から、五年以上はたっているだろうから、その間に話も進んでいるだろうし、もしかしたら完結しているかもしれない。だが、それをエリーゼ(のゆり)が読んでいない。それじゃ、自分が今後、ないとなう! に出てくるかどうかもわからないし、出るんだとして、どういう役どころかもわからない。
 最初からない情報を当てにして、色々と算段を立てようとするのも苦しかった。

 ただ、アストライアの暦の計算上では……バハムート暦895年。900年きっかりで、魔族が亜空間から大侵攻してきて、魔大戦が開戦される。そこでバハムート帝国は圧倒的な魔力(言い換えれば火力)を持つ魔族にいったんは、帝都シュルナウ陥落寸前まで押されるが、英雄と呼ばれる老若男女のキャラたちの大活躍によって押し返し、見事勝利となるのだ。
 その、魔大戦大勝利の見開きで24巻は終了。恐らく計画通りだったのであろう。
 そして25巻からはいきなり、ラブコメのターンが始まる。

 どういうことかというと、魔大戦で魔王を倒すという功績を挙げた英雄アスラン(主人公)が、皇家にいる三人の姫、イヴ、マリ、アルマの三人からアタックを受け、誰を選ぶかという、ジレジレ展開に突入しているのだ。要するに、恋あり戦闘あり冒険ありと、何でもありありルールの異世界大冒険ロマンス? なのだろう。
 ところで、その25巻を読んでいる時、のゆり(エリーゼ)はネットで袋叩きにされ、荒んだ気持ちでげんなりしながら読んでいた。
 要するに、何も頭に残っていない。そんな状況でラブラブエロコメ出されたところで(しかも少年向け)、お姫様のおっ○い……? 私何も興味ないんですけど。という事になる。
 まあ、読んだ時のタイミングが悪かったということになるだろう。

 そのとき、MMORPGからのスピンオフとはいえ、アニメ化の噂すらあったないとなう! であるから、26、27とその後巻数を進めていると思われるが、それは読める立場じゃないんだから、どうしようもない。

 とにかく、エリーゼは、本当に魔大戦が始まるかどうかすら疑わしい心境で、ハルデンブルグ伯爵夫妻にかわいがられて、地方の貴族学院に進んだ。貴族学院では、成績は優秀だった。当たり前だ。相手は小学生、エリーゼは中学校は卒業しているんだから。だが、非常になじみにくいのは確かだった。精神年齢の差もあるし、環境差もある。(結局エリーゼは、優秀な成績でステップし、12歳で中学校を卒業した)

 そして彼女が十歳の時--バハムート暦900年、正月から、本当に、魔族の侵略が始まり、ハルデンブルグ伯爵夫妻は出陣した。

 十歳のエリーゼに出来る事は、両親を信じて待つ事だけだった。エリーゼは、侍女や執事のすすめで、教会にせっせと通い、善行を積みながら、人類の勝利と両親の無事を祈り続けた。それぐらいしか、出来る事はなかった。

 そして、ハルデンブルグ伯爵夫妻は、帝都を蹂躙しようとする魔族を前に敢然と戦い、英雄たちの出撃への活路を開き、殉職したのである。
 ないとなう! にそんな場面はない。ハルデンブルグ伯爵などと、名前一つ出てこない。要するに、徹頭徹尾コマの外で活躍し、コマの外で英雄のために死んだのであった。
 英雄アスランが、魔王と決戦するための、下準備の下準備のそのまた下準備……ぐらいで死んだのだった。

 そして、帝都は守られ、最終決戦で魔王はアスランに倒され、人類は勝利の栄光に輝いた。

 めでたくもありめでたくもなし。

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あとがきなど
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