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今、ここに生きる星-転生したら養女モブ!-


第一章 幽霊少女は英雄を救う


第四十話 月下の遊戯(3)


「……っ」
 その紛れもない強さに、式部丞ミヒャエルは狼狽えた。
 彼とフランチスカは、風精人ウィンディの貴族の中では、まず、”普通の家に生まれ、普通の教育を受け、普通の魔法と教養を持ち、まず普通の縁組みである”と思われている。
 実際に本人達も、何のてらいも嫌みもなく、自分たちは普通だと思って生きている。普通の貴族、普通の男女。
 風精人ウィンディ貴族の間では、「女性は男性より成熟が早い」という常識があるため、自分より、三歳~五歳、あるいはそれ以上年上の男性と、女性がカップルになることはよくある。
 女性の精神年齢に、男性が釣り合わないだろうと言われているのだ。

 他にも、皇后の実家ビンデバルドや皇族の血を引くなどの大貴族、上流貴族と言う訳でもなく、地方に地味だが潤沢な資源に溢れた所領を持ち、父親はコネ半分実力半分で権力の座……それもせいぜい式部省の卿となり、母親は内助の功と言いつつ家族の世話と社交パーティに明け暮れて……などなど、ミヒャエルとフランチスカの共通点は数知れず、その彼等の属性にかぶっているシュルナウの貴族など、何百人いるか分かった物ではない。
 その彼等の魔法の力や戦闘力は、やはり、兵士として前線に出る事は出来ないが、下士官を上手に将棋の駒のように操って、支援の魔法をかけるぐらいなら楽勝という程度だった。

 その共通点の多い二人が、噂の種になって、実際に、良い空気のカップルであることは、アルマにとってもわかりやすい話で、仲良く連携で自分とマリを倒そうとした事に関しても、仲良きことはうつくしきかなとは思う。

 だが、今は、それとこれとは別だ。
 その、神聖バハムート帝国の貴族として標準中の標準のカップル。
 式部丞ミヒャエルとその恋人フランチスカに、アルマは不敵な笑みを向ける。
 そして、自分の愛刀閃姫せんひめを両手で構え直す。

 その瞬間、ミヒャエル達は、不快感もないのに、背筋が凍り付くのを感じた。二人とも、微熱の魔法は使っている。魔法で温まっていた体が急速に冷え込むような--しかもそれは、不快ではない。ただの、恐怖。畏怖であった。

 その次の瞬間、アルマが宙に舞い踊った。背後のミモザの木の幹を蹴り上げて、そこから横に飛ぶ。迷宮の通路の雪の壁を左右ジグザグに飛びながら斜めに駆け上がったかと思うと--。

「空よ、輝け! 嵐よ、鳴り響け!」

 空中高くから、アルマが叫びながら大気を一刀両断していく。
 正しくその場の空気が真っ二つに断ち切られるほどの衝撃。

「轟天斬!」

 アルマは実際には、空中から飛び降りながら刀で<大気>を斬ったのに過ぎない。全く、刃はミヒャエル達にかすりもしていない。
 しかし、雪の道に叩きつけられた閃姫せんひめは分厚く固められたタイルのような雪を、全て叩き割り、吹っ飛ばした。その下から剥き出しになる冷たい泥。

 刹那、爆風と轟音に吹き飛ばされたのは、フランチスカだけではなかった。痩身とはいえ、大の男のミヒャエルもまた、アルマの閃姫せんひめ
の巻き起こした暴風と地獣人モフの”気”の力により、頭から冷たい雪の壁に叩きつけられていた。
 全身を麻痺させるほどの衝撃。それにより、ミヒャエルとフランチスカは、声もなく、気を失った。そのまま仲良く雪の壁に背中を預けて昏倒する二人。

「……この程度かよ。もっと強化してやらなきゃ……」
 つまらなそうにアルマはそう言った。

「少しは手加減しなきゃダメよ、アルマ」
 背後から、マリが苦笑いを滲ませた声でそう言った。

「俺そういうの苦手なんだって、マリ。……え、マリ!?」
 アルマは、自分の背後の事を気にしていなかったらしい。
 先ほどの轟天斬の風圧は、アルマの前方だけではなく、四方の範囲全体に及んでいた。
 マリは、あらかじめ防御魔法を使っていたのだが、いきなり足下の雪が割れたため、その場に勢いをつけて転んでしまったらしい。

 雪の下の冷たい泥、それが、マリの綺麗な真っ白の外套の全面にべったりとついていた。腹部のあたりから、膝まで。

「マ、マリ、どうすんだそれ!?」
「うん……」
 滅多に怒る事のないマリは、困ったように眉尻を下げながら、泥を何とかはたき落とそうとするが、黒々とした汚れは簡単に落ちそうもない。

「ごめん、マリ、俺、考えなしだった」
 アルマは、純白の妖精のように美しく愛らしかった先ほどのマリの様子を思い出して、悲しんだ。
「いいのよ、アルマ。だけど、これじゃちょっと……あんまり、動き回れないかも」
 マリは決して怒らず、かえってアルマに気を遣っている言葉遣いに自然となりながら、自分の知っている呪文で汚れを落とせないか試しているようだ。だが、下手にいじるとかえって、黒い汚れが広がるようである。

「……」
 さすがに、20歳の皇女が、そんな酷い格好では、表を歩き回れないと思ったらしい。しかしそれを声に出す事が出来ず、マリは困り切っている様子だ。

「凄い! アルマ様、派手にやりましたね」
 ちょうどそのとき、今日は黄蘭宮の臨時職員を務めている、ユキがその場に駆けつけてきた。
 ユキは、正式のものではなかったが、その日の警備兵が皆着ている、青紫色の分厚い、毛皮のついたジャンパーを着用していた。それに略式の警備の制服に、黒のしっかりしたブーツ。

 ユキは、壁際にもたれかかって気絶しているカップルの脈拍を確かめたり、目立った怪我がないかどうか調べたりしている。

「大丈夫か、ユキ?」
 アルマは自分と同じく、狼の耳と尾を持つユキの隣に立って、二人の息を確かめようとした。
「救護室で休んで貰えれば、回復出来る範囲内です。僕、運びますね」
 やはりユキは、狼の地獣人モフとして、超体力と格闘センスを誇るため、大人二人を肩に担いで移動など朝飯前である。

ユキ、フランチスカ様達、大事に運んであげてね。もうお怪我のないように」
 マリは泥の汚れにもかまわずに、ユキの方に歩み寄ってフランチスカ達の無事を頼んだ。

「ええ、勿論ですよ、マリ姫。……?」
 ユキはそのとき、白い優美な外套の前についている冷たい泥に今更ながらに気がついた。先ほどまで、アルマの技の華麗さと破壊力にしか目がいってなかったのだ。

 ユキは、その場で、青紫のしっかりした防寒のジャンパーを脱ぎ捨てた。
ユキ?」
 びっくりするアルマ。
「マリ姫、これを着て下さい」
 そう告げてユキはマリの背後に回り込み、肩から自分のジャンパーをかけてやった。
 男物のジャンパーは、膝は少しのぞくものの、泥の汚れはすっぽり覆い隠してしまった。
「今日は寒いですから……気をつけて下さいね」
「そ、それじゃ、ユキは?」

「僕は狼の地獣人モフだから、これぐらいの寒さは平気なんです。気にしないで」
 唖然としているマリとアルマをその場に残し、ユキは右肩にミヒャエル、左肩にフランチスカを軽々と担ぐと、そのまま、飛ぶような速さで走り去った。
「怪我しないでくださいねー!」

「あ、ありがと……」
 マリは真っ赤になってお礼を言っている。マリの声は……恐らく、地獣人モフユキには聞き取れていただろう。正しく真冬の突風のように走り去ってしまったのだが。

「アルマ、アルマは寒くないの?」
 不思議に思ったアルマは、同じ狼のアルマに聞いて見た。
「俺だって寒いよ?」
 アルマは尻尾と耳をピンと立てながらそう言った。
ユキは、自分が寒いより、マリが寒そうなのが嫌だっただけだろう。後で、もっとお礼してやらないとな!」
 皇太子は快活に笑っている。魔大戦の時から、彼等は本当に仲が良かった。

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あとがきなど
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