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短編

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ないとなう! とは(19)テオと義勇軍

 宿舎のアスランとフォンゼルの部屋で、アスランは彼の、キノエはフォンゼルのベッドに寝かせる。
 その後、フォンゼルが、日々、切磋琢磨してきた白魔法の知識と魔法で手当を行った。程なく、アスランとキノエは意識を回復し、体に故障がないことを確認した。

 フォンゼルはフォンゼルで、自分が重傷者相手にも十分な回復魔法を使える事を確認して、内心安堵しているようだ。ものすごい勢いで強くなっていく同期のアスランに、自分はついていってるらしい。

「お前、なんで、オノゴロ語を話せるんだよ」
 意識を回復したアスランは、気まずそうに、バハムート語で話した。キノエは、軽くため息をついて返事をしなかった。
 そのあと、言った。

「お前ら、命が惜しければ、ライヒから離れろ」
 彼もバハムート語で話していた。
「でなきゃ死ぬ気で戦え。国民のために。そのための正規軍だろう」
「……」
「ま、貴族の坊ちゃま達には出来ないだろーな。平民出身の女先生には同情するわ。自分がライヒの平民だったらと考えない日はないだろうよ」

 せせら笑うようにキノエは言ってベッドから起き上がり、自分を回復してくれたフォンゼルの肩を軽く叩いた。
「ありがとよ。……帰るぞ、ユキ
「うん。兄貴」

 どこでレオニーが平民の女性だと知ったのかは、アスラン達にはわからない。だが相手が忍びの技を持つ事を考えれば、どこかで調査したのだろうと考えられた。
 アスラン達の部屋を出た後、廊下で、早足のキノエユキが声をかけるのがわかった。
「言い過ぎだよ兄貴! いつものことだけど!」

 その後、三日とたたず。
 宿舎のアスラン当てに、手紙が来る。
「テオ・シュタイナー」という人物から。
 その名前だけで、人相見で食い扶持を稼ぐ子爵、テオフィール・フォン・シュタインとわかったようなものだ。

 テオは、どうしても話したい事があるので、アスランとフォンゼルとリュウで、明日の午後ミトラ教会へ来て欲しいと、丁寧な敬語で手紙に書いていた。

 テオ姉弟の話はどうやら本当である事は、アスラン達は知っていた。気にしていたので、アスラン達は翌日、約束の時間にミトラ教会へと宿舎を抜け出して向かった。

 ミトラ教会は、ライヒのほぼ中心にある、壮麗で威厳に満ちた高層建築である。
 ライヒ全体に時刻を知らせる時計塔を始め、本館、別館など高い建物が続く。その裏手の別館の談話室を、テオはアスラン達との待ち合わせの場所に選んでいた。

 ミトラ教会には話がついていたらしく、正門の受付でテオ・シュタイナーの名前を出すと、信者の女性が出てきて談話室まで案内してくれた。
 そこに、相変わらず闊達な笑顔のテオがいた。信者の女性はすぐに持ち場に戻り、アスラン達は、テオと密談する事となった。テオが密談と言ったのだ。

「俺さ、今度、ライヒの街を守る義勇軍を作ることにしたんだよね。やっぱり、自分の身は自分で守るのが一番だし」
「……義勇軍?」
「だって仕方ないだろ? 魔王軍が目と鼻の先にいて、交易商人なんかも食い散らかされている現状で、ライヒ騎士団は動いてくれない、ビンデバルド本家は通常運転、正規軍のあんたらも当てにならない、それじゃ、市民の未来は市民の手で守るしかない。そういうわけで、俺ら、前からこの教会の先生方から色々聞いたり話し合ったりて、ネットワークっていうやつ? 作っていたんだよね。それでさあ、皆で力を合わせればわりといけることがわかったんだ」
 相変わらず饒舌な様子で、シュタイン子爵はぺらぺらと話し始めた。
 正規軍の軍服相手に正規軍は当てにならないとはこっぴどい話だが、不思議に悪い気はしない。そういう話し方が出来る奴だった。

「上官の女先生には黙っておいてね?」
 へらへら笑って、ミトラ教会で出すライヒ地元の高級茶をすすめながらテオは説明を続けた。
「とにかく、魔族がザイデの街を滅ぼして本拠地にしちゃって、ライヒはその真ん前にあるわけだろ。いつ、ザイデの街みたいに、人類が食い尽くされちゃうかわからない、市民はそれこそ怯えているけど、どうしたらいいかわからないわけ。それで、俺ら、薬品を使ってこの間、ザイデのオアシスまで魔王軍に偵察にいったのよ」
「……何?」
 正規軍の三人は顔色を変えた。

「生活魔法って知ってるだろ。庶民が、調理や裁縫や、洗濯レベルで使うちょっとした魔法。それを組み合わせれば、魔族にも気配を悟らせないで、姿を消して接近することが出来るんだ。若い男だけで頑張ってみて、行ってきたんだよ、俺も。この間の話なんだけどさ……」
「危険だ!」
 思わずフォンゼルがそう叫んだ。正直、このときばかりは、レオニーを怒鳴ったファビアンの気持ちがわかった。勿論、セクハラする気持ちはちっともわからないが。

「何だよ……無事に帰ってきたからいいだろ? それで、わかったんだけど。やっぱりザイデの魔族も正規軍が鬱陶しいんだってさ。正規軍が睨んでくるから、ライヒを攻略出来ない。だけどいつまでたっても正規軍からの動きがないんで、実は大した事ないんじゃないかと思って、今度、一網打尽にする大作戦をするんだって」
「……何?」
「うん。そういってたよ。人語を解する魔人クラスが。バハムート語で」
 何故魔人がバハムート語を話すのか、はテオも知らないという。

「でさ、正規軍を叩くっていったって、そのときに戦場になるのは俺たちのライヒだよね。市民だって無事にすむわけないじゃん。魔族が来たら食べられちゃうじゃん?」
「……」
「それで、俺ら、義勇軍を完全に組織化して、自己防衛する事に決めた訳。腕っ節の経つ奴には片っ端から声かけて、ライヒ騎士団のお兄さん方にも声かけて、なんとか魔族の大作戦を一網打尽に仕返す事にしたいんだ。あんたらにこれを教えるのは、この間、交易商人の命のために、あんたらだけが戦ってくれただろ? そういうの、俺たち好きな訳。その後、上層部でもめ事あったらしいけど、それでも文句言わずに、毎日鍛錬に励んで、俺らを守ろうとしてくれてるんだろ? そういうの、大好き。だからさ、あんたら、よかったらこっちに来ない?」

 正規軍に入れてくれといっていた少年が、義勇軍を組織して、逆ハンティングしてきた。

「……」
 あんまりにも突然の話に、アスラン達は声も出なかった。テオだけが平然とした顔で、高級茶を舐めながら言った。
「勿論、無理な事は言わない。正規軍の仕事が大事ならそうすればいい。だけど、もうすぐ魔族が来るよ。狙いは正規軍を叩き潰して、ライヒを自分たちのものにすること。ライヒ騎士団の事も叩く気はあるようだし……だけど目の上のたんこぶは、正規軍かな。何しろ、帝国の六衛府から編成された、本来なら最強の軍勢なんだからね」

「…………」
 それは、そうなのだった。正規軍は、帝都、帝国を守る帝の禁軍としての側面もあるのだ。その多くは風魔法を始め様々な魔法を駆使する高位の貴族、騎士で編成される。
 それに対して、兵部省以下の軍勢、ライヒ騎士団などは、平民からの出身も多く、貴族がいたとしても男爵、子爵程度である。……位が違うということは、強さが違うのだ。

「女先生に、気をつけるように言っておいて。貴族の女性なんだろうけど、嫌みのないいい人だよね」
 ……もしかしてファビアンとのことを知っているのかもしれない。テオはそんな口ぶりだった。

「レオニーは、平民の出身だ。貴族じゃない」
 アスランはそこを訂正した。
 テオは、目を丸くした。
「えー! いけるじゃん!!」
 とても子爵とは思えない砕けた口調は、本人が言う通り商人に毛が生えたような立場で、実際に、平民、庶民と頻繁に交流した結果なのだろう。
「あの優雅さと美しさで!? それで平民出身! びっくりした。貴族の女性に通じる立ち居振る舞いとマナーじゃん。それなのに、平民! ってことは俺らの仲間だよね? 女先生にも声かけてよ。……頼めるかな。俺ら、一緒にライヒを守るために戦ってくれる仲間が欲しいんだよね!」
 全く屈託がない上に悪びれていない。魔族が、近々、進撃してくることを教えて、情報共有している立場だと思っているらしい。

「……今、義勇軍とは、何人ぐらいいるんだ?」
 フォンゼルは当然、気にしている事を口に出した。正規軍が「当てにならない」とライヒ市民にはっきり言われてしまったのである。
 すると、テオは、嘘か本当か、まるっきり馬鹿に出来ない人数を挙げた。ライヒの若者の八割は参加しているといわんばかりの数だった。
「嘘はついてないよ?」
 その上で、けろっとしたものだった。

「あんたらは俺らのために戦って、結果出してくれたから特別。うちに来てくれたり、えーと、内通? してくれるんなら、これからも情報を共有していくよ。だけど、ライヒの市民を迫害したり、俺らと敵対するなら同じ事は出来ない。わかってくれる?」

 これで貸しも借りもないといわんばかりのこざっぱりしたテオの笑顔だった。

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あとがきなど
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