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今、ここに生きる星-転生したら養女モブ!-


第一章 幽霊少女は英雄を救う


第十五話 ないとなう! とは(3)


 エリーゼはそんなまとめをノートに作りながら考え込む。
 ないとなう! の概略は大体そんな感じだが、現時点での、アスランの敵はどこになるのだろう。

 エリーゼの知っている、25巻までの”ないとなう!”では、伏線はかなり小出しにされていたと思う。様々なキャラクターが様々な思惑で、繋がったり切れたりしながら動いていた。
 その最たる絆が、アスランとキノエ
 時として完全に敵対して決闘し、時として背中を預け合いながら戦う。
 キノエは状況に応じて、皇太子アルマの利害関係で動くドライな忍びだが、それだけではない。
 彼には彼の理があり美意識があり、それに沿わない仕事はしない。
 そこはアスランが--下手をすると、義弟のユキよりもアスランの方が理解している節がある。

 アスランとキノエはお互いに気に入らないライバルと思っているようだが、妙な所で繋がりあっているようなのだ。
 それはさておき、登場シーンからずっと、アスランとキノエはいがみ合っていた。それに、キノエは目的のためには手段を選ばない一面がある。

 だが……。
(勿論、キノエさんがアスランさまを、暗殺するわけがない。殺したいぐらいアスランさまを憎んでいる可能性はあるけれど、だからといって、赤ちゃん産んだばかりのお母さんを使うだろうか……? それに、アルマ様にご迷惑がかかる。アルマ様に、今、アスラン様を暗殺しなければならない動機がない。皇太子で、最終決戦に、アスラン様と一緒に戦って魔王を倒したアルマ様が、アスラン様を暗殺する理由って何……?)

 こじつければ、いくつか出てきそうな気はする。例えば、皇家よりも目立って人気のあるアスランを妬んでとか。
 ……だが、アルマは、竹を割ったようなさっぱりした性格と少年のような快活さが最大の魅力の実力ある皇太子。漫画の上で、そのサバサバした女性が、こっそり主人公を暗殺というのは、度肝を抜く事は出来そうだが……そんなお互いのキャラをsageる必要があるだろうか?

(ないと思うなあ……)
 エリーゼはペンを持ち直して、自分で書いたアルマの項目とアスランの項目を見直した。

(他にアスランさまのライバルというと……血盟将軍家の将軍さまたち? ジェネシスの宝器を代々受け継ぎ、初代皇帝ルシュディーさまの血の契りを結んだ仲間の子孫。その人達は、確かに、漫画内でアスランさまとすったもんだあったこともあったけど、それはジェネシスの宝器をどうするかということであって、性格的に合わなかった事もないような……)
 それこそ、皇太子アルマは、国をうれいて、ジェネシスの宝器で魔族に反撃を試みていた。
 その際に、ジェネシスの宝器を初代皇帝ルシュディーから譲られ、ずっと守ってきた血盟将軍の家々と、意見の対立があったのである。

 初代皇帝ルシュディーは、ジェネシスの宝器を作った神人カースィムと、その他に、名のある勇者達と血の契りを結び、その固い絆を元にして、神聖バハムート帝国を樹立した。代々、その仲間の名を受け継いでいる所が特徴である。

 その名を、
 サディーク・アル=ダウサリー。
 ナスリーン・アル=サイヤード。 
 カトル・アル=アッタール。

 神人カースィムの故郷という、楽園大陸ミヌーの神々に通じる名前を持つのは、神聖バハムート帝国においては、皇家アル=ガーミディをのぞいては彼等だけである。

 楽園大陸ミヌー。
 人類と、名だたる魔法の発祥の地とされ、五千年前にカイ・ラーの海に沈んだとされる幻の大陸。
 初代皇帝ルシュディーは、既存の神々を信奉する勢力を避けるため、その幻の大陸の神々の教えをまとめた”ミトラ教会”を自ら作り上げた。そのミヌー大陸の伝説やミトラ教会の教えについては色々あるが、ここではまとめきれない。
 その誇り高い血盟将軍家が、新興勢力のアスランをよく思わず、暗殺--?
(ないと思う。そもそも、動機が、ない。新興勢力だから、面倒くさくて妬んで、アスラン様を叩き潰そうとするのは……多分)

 エリーゼは小首を傾げながら、ノートにペンで”ビンデバルド”と書いた。

 ビンデバルドと書いて、皇后の実家と読む。神聖バハムート帝国において、名を知らぬものはいない、風精人ウィンディの最大派閥にして大貴族。

 だが、現皇后エンヘジャルガルは地獣人モフの姫君で、風精人ウィンディではない。ビンデバルドの血は一滴も引いていない。
 エンヘジャルガルの前の皇后、アフマド一世の正妃、アルタンツェツグもまた、地獣人モフの姫。複雑な政治的事情で結婚したが、現実的に愛のある家庭であったため、それぞれ正嫡に恵まれている。

 ビンデバルドが、何故、現在まで皇后の実家を名乗るのかというと、アルタンツェツェグ皇后の前、イクバル五世の正妃、カトラインはビンデバルド宗家の出身である。それ以前、実に、長命の風精人ウィンディでありながら、七代連続、帝国の皇家はビンデバルド宗家の姫を皇后に迎えていたのであった。

 それがここ二代連続、ビンデバルド宗家どころか、風精人ウィンディの血すら入っていない、地獣人モフの姫が皇后となっているのである。そのことについては、批判が高かったのだが、まさか、魔王軍との決戦において、命がけで清浄結界を張ったエンヘジャルガル皇后を、面と向かって叩くわけにもいかなくなった……という話は、”ないとなう!”原作に語られている。

 そう。エンヘジャルガル皇后は、自分の命を代償に、帝都の民を守る結界を張った。七日間を越したら、彼女の命が消滅したのだという。

 自分の母が命がけで臣民を守っている姿を見て、皇太子アルマとその従姉の双子姫は立ち上がり、何が何でも魔王を倒してやろうと決意したという漫画の流れは読んでいる。

 そして見事に結果を出したのだ。当然ながら、地獣人モフの血を引くからといって、目下のところ、皇后や皇太子達、地獣人モフの血を引く姫に、非難がましい事を言う輩は表だってはいない。アスラン同様、無敵の人気を誇っていると言っていい。

 だからこそ、ビンデバルド宗家は……このシュルナウに大邸宅を構えているのだが……彼等は、相当面白くないのではないか、とエリーゼは推察した。
 エリーゼも、現代日本で中学校は出ているし、神聖バハムート帝国でも、地方の貴族学院は出ている。だから、どういうことなのかは分かっている。

 外戚政治、摂関政治だ。
 アフマド一世と、アルタンツェツグ皇后が即位する直前まで、ビンデバルド宗家が、外戚政治を執って、この国の権力を掌握していた。
 それが、エリーゼにはわからないことだが、何らかのクーデターがあって、アフマド一世と地獣人モフの姫が結婚し、正嫡アフマド二世を得た。アフマド二世も、理由があってのことだろうが--それは恐らく、ビンデバルド宗家に権力を渡したくないということだろうが--地獣人モフの姫と結婚した。

 そして、アスランは、皇帝アフマド二世の命令を受けて、皇太子アルマ、双子姫イヴとマリとパーティを組み、魔王を倒したという流れだ。

 一番面白くないのは、ビンデバルド宗家ではないか、と、漫画を読んだだけのエリーゼは考えた。
 ビンデバルド宗家のキャラクターは、今のところ、内大臣ザムエルという、中年のいかつい男性顔の1コマしか見ていない。
 この先の出番はどうなるのか……?

(お養父さまに言った方がいいんだろうか……でも、お養父さまは、お仕事の話を私としたいだろうか……どうしよう)
 エリーゼはペンを持ったまま、また健気に、15歳の養女らしく悩んだのだった。 

 

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