今、ここに生きる星-転生したら養女モブ!-
第一章 幽霊少女は英雄を救う
第十六話 友達の逆鱗 1
帝都シュルナウは、このテラ大陸でも数少ない百万人都市である。
実数は、二百万人近いとも言われている。
魔大戦の際に、魔族に踏みにじられる寸前まで追い詰められたが、皇后エンヘジャルガルと英雄達の力で帝都はほぼ無傷で守られた。帝都シュルナウの東側が、大海原カイ・ラー。遙かなる海カイ・ラーは、この世界”アストライア”において、最も広大な海と呼ばれている。
カイ・ラーを右手に、英雄に守られた帝都シュルナウの中心にあるのが、皇帝アフマド二世の住まいであり政治の中枢機関である帝城”アデルトラウト”。巨大な塔をいくつも兼ね備え、その壮大な威容はシュルナウのどの方角からも確かめられる。
そのアデルトラウト城の北東を守るように、神聖バハムート帝国の国教であるミトラ教会の寺院が軒並み並んでいる。古いものもあれば新しいものもあり、それぞれがミトラ十二神のいずれかの神を崇拝している。シュルナウの人々はこの城を守る北東の区域を神の手通りと呼ぶ。
東側全体に続くのが、苹果林と呼ばれる、現代日本で言うなら大名屋敷の群れだ。神聖バハムート帝国の諸侯の屋敷や別邸が、それぞれセンスを凝らした庭とともにひしめいている。バハムートの諸侯には参勤交代の制度はないが、新年の祝宴には城に参上する事になっているので、地方から出てくる貴族は別宅を抱えている事が多い。苹果林の名は、帝国創世の時代、その地域に黄金の苹果の林があったという伝説による。
その真下が、城や貴族の屋敷に仕える兵士や使用人の住居となる区画である。城から見て東南にあるのだが、洗濯した紺色の制服を庭先に干している事が多いため、都民の通称は紺の旗の町。
その隣、城から見て真南が、城に続くメインストリートの大通りとなっており、帝都をあげてのパレードが開催されるだけの広大な土地を有している。その左右は公園。このメインストリートは南大門と呼ばれている。
そしてアスランが今回、馬を飛ばして向かっている冒険者ギルドと冒険者の町は、その南大通りの西側にある。
城の南西に位置する、異国情緒豊かなその街は、冒険者の自由のシンボルである白銀か黒の狼の紋章が至るところに飾られている。街の通称は狼の寝床から一気に機動馬
ちなみに、城の西側は商人達の集う町人通りで、帝都でもずば抜けた繁栄を誇っている。昔、商人達の家には、表に花櫚の木、裏に樫の木が植えてある事が多かったそうだ。「金は貸しても借りない」という意味であるらしい。現在も、街路樹には花櫚が選ばれている。故に華やかなその街は花櫚通り
北西の方角は、工人の街。冒険者ギルド以外の数々のギルドが立ち並び、そこで様々な技術者達が匠の技を競い合っているのだった。こちらではミトラ十二神とは別に、技芸と工芸を司る三柱の神ゴーシュを祀っている事が多いため、単純にゴーシュ街、もしくはギルド街で通じるのだ。
アスランは機動馬
その後、約束の時間通りに、ギルドの野外演習場に現れた。
そこでは、彼の親友であるリュウが、真っ白な仔竜の雪鈴
冒険者ギルドには、冒険者に仕事を紹介するだけではなく、彼らの生活面をサポートする相談所の役割も果たしている。また、戦闘スキル向上のための様々な訓練をするための制度や施設も整っていた。何しろ、魔族との総力決戦直後の話である。帝国もなりふりかまってはいられなかったので、猫の手も借りたいという意味で、冒険者達の戦闘能力も結構当てにしていたのであった。
その結果生まれたのが、民間出身の青龍人
そうした事情の中で生まれたのが、ギルドに隣接する野外演習場である。演習場は1~8番まであり、そのそれぞれが、魔力障壁で覆われた特殊なフィールドであった。
その魔力障壁は、全ての魔法や物理攻撃の衝撃は吸収してしまう。強力な魔法を使っても、壁の外には魔力は漏れないのだ。
また、魔力障壁の中には簡易の回復魔法が施されており、手傷を負ってもかなりの高速で自然回復出来るようになっている。
魔力障壁が覆う、演習場は、8番までそれぞれ広さも地形も違うのだが、今回、アスランとリュウが朝早くに取っていたのは最もスタンダードな1番演習場だった。
演習場は、現代日本出身のエリーゼが見たならば、ゴールのないサッカー場を思い出しただろう。綺麗に整備された平らな芝生が100メートル続き、見晴らしはよい。
サッカー場と違うのは、長方形ではなく完全な正方形であることだ。
魔力障壁は透明で、存在感は薄かった。
アスランはギルドから武器と防具を借りる際に、ギルド内のルールの確認を受けているので、係員などは見学に来なかった。何しろ、リュウと同じく常連の一人なのである。
アスランが装備していたのは、北十字星
リュウの装備は、氷心
そして彼は、青紫の全身鎧一式を身につけていた。こちらも、伝説的な素材で様々に工夫と強化をこらしてきた逸品であることは、戦いを知っている者なら誰でも分かるレベルだ。
これ以上の武器・装備品もアスラン達は持っている。既に彼等の実力は、軍事兵器のレベルを超えていた。だからこそ、”ちょっとじゃれ合う”程度の組み手をするにしても、冒険者専用の演習場を借りなければならなかったのである。