今、ここに生きる星-転生したら養女モブ!-
第一章 幽霊少女は英雄を救う
第十七話 友達の逆鱗 2
「おはよう、リュウ。待たせたか?」
「いや、時間通りだ。アスラン」
リュウは大体、待ち合わせより十分程度早めに行動する癖がある。
リュウの肩にとまっていた仔竜の雪鈴が竜の言葉で何か言った。キュルキュル、という鳴き声に過ぎなかったが、アスランに向かって愛想よく挨拶をしたらしい。
アスランはそれを聞いて、キュウ、と竜語を真似して見せた。おそらく言葉にはなっていなかったろうが、雪鈴はその名の通り真っ白な体の羽をパタパタさせて喜んだ。
雪鈴は、リュウが言うには親戚の子供と言うことである。何故、仔竜の姿をしているかは、アスランも知らない。
アスランは風精人らしい銀髪の青年で、輝く青空のような瞳と日焼けした肌を持っている。そのアスランよりも頭一つ分背が高いのがリュウで、彼は青龍人ドラコにしては珍しく、金髪碧眼であった。どちらも、戦士として恵まれた引き締まった筋肉を持っていたが、同時に非常に容姿端麗でもあった。
「今日は、久々に飛ばさせてもらうぞ。本当に、毎日毎日、貴族同士の挨拶回りで、気疲ればかりしてしまった。このへんで、自分で自分にカツを入れたい」
そう言ったアスラン含め、年末年始の貴族同士の挨拶回りは恒例行事だ。しかもその後、夕べ一晩、暗殺未遂に関する根回し、貴族同士の駆け引きをしていたのだ。彼は気疲れどころか、軽く鬱になっていたかもしれない。
「そうだろうな。そのあたりは、俺にはない苦労だが、想像は出来る。俺も油断はしない。手合わせ願おう」
リュウは闊達に笑って、アスランの期待に応えようとした。
二人は演習場で、久々に対戦試合をするつもりなのである。
こういう場合、ギルドの係員などに審判を頼む事も多いのだが、今日は、どちらかが「参った」というまでガチンコ勝負ということになる。それが二人の間では了解されていた。
二人は、演習場の中心に進んでいった。雪鈴はリュウの肩から飛び立って、伸びやかに白い羽を揺らしながら、主人の後について飛んだ。
演習場の中心で、二人、向かい合う。
リュウが先に、氷心を立てて、軽くアスランの方へ礼をした。アスランも、北十字星の切っ先を下ろし、リュウに向かって礼をした。
仔竜の雪鈴は、リュウの後ろで、ピイイっと一声鳴いた。
それが、この試合……限りなく現実に近い模擬戦の開始だった。
リュウVSアスラン。
リュウの方には雪鈴がついていく。
先に動いたのはリュウだった。
一歩、飛び下がる。ほとんど瞬間的な動き。
まさに、瞬きするほどの感覚で、リュウは氷心にちょうどいい間合いをアスランから取ると、その槍先を使ってアスランの足を薙ぎ払おうとした。
青龍人の強靱な腕から放たれるその一撃を、もろに風精人が受ければ、片足が吹っ飛ぶ事さえあるだろう。少なくとも骨折は免れない。
だが、アスランは本当に最小限の動きでそれをかわし、左腕の盾を構え直してリュウの方に姿勢を向き直らせた。間合いを取る--取ろうとする。
リュウは、それをさせなかった。
リュウの氷心から凄まじい衝撃が放たれる。
それも続けざまに。
叩く、突く、叩く、突く、叩く!
次々と放たれる華麗な槍術の連続攻撃は、リュウが既に、完成された槍の名手であることを示していた。
一目瞭然で、リュウは、アスランには息もつかせないスピードに乗った猛攻撃で”削りきろう”としていた。
アスランのHPを。
アスランは、左腕の盾、神妃の盾を巧妙に使いながらリュウの猛攻を防いでいる。
その目は冷静で、まだ、焦りも怒りも感じさせていなかった。
だが、防御を固める魔法を唱える余裕はない。
神妃マウナ--ミトラ十二神の主神ミトラの正妃にして山の女神。その加護を受けた盾の防御力は、リュウの知っている限り最強。その防御を突き崩すのは至難の技。
そのためにリュウは、アスランに攻撃の暇も与えないほどに、全力で氷の槍を振るっているのだ。
そのとき、リュウの背後で子龍雪鈴が羽根を大きくはためかせる気配がした。
白い翼を広げながら、雪鈴はリュウを援護して、氷のブレスをアスランにぶつけ始めた。
雪鈴は小さい子供に見えても龍である。人語は話せないが聞き取る事が出来、知能はかなり高い。いくつかの回復から攻撃魔法まで、いくつかのブレスを状況に応じて使い分け、常にリュウをサポートするのだ。
「くっ」
わかっていたが、2対1。
防御力がいくら高いとはいえ、このままやり過ごす事は出来ない。
アスランは、リュウと雪鈴の動きをよく見て、二人の間隙を突き、北十字星の一閃を放った。
北十字星は北方の軍神の剣。そして、大雪原に輝く十字星の輝きを封じられている。一瞬、気高いほどに眩しい光がリュウと雪鈴を直撃し、二人の行動は硬直した。
アスランは北十字星を素早く構え直すと、後ろに大きく飛び下がった。一気に距離を詰めてきたリュウと雪鈴に対して、逆に距離を取る。
「漆黒の宇宙に漂う星辰よ、
我が前に姿を現し、
その輝きを放って敵を薙ぎ払え。
暗黒の深淵の力よ、
我が手に宿りし星よ、
我が敵を消し去るべく、
煌々たる光を放て。
我が魔力を込めし星よ、
破滅の光をもたらせ、
そして我が道を照らさん。
――《星滅尽》!」
常人には聞き取れないほどの高速詠唱で、アスランは攻撃の魔法を撃ち放つ。
それは、彼の持つ星辰の魔法の最大規模のものであった。魔法を撃つTPOを間違ったら、百万人都市シュルナウでさえ陥没させられるだろう。
それほどの威力。
それほどの攻撃。
一瞬、その場に暗闇が展開して視力だけではなく五感を鈍らせる。感覚が落ちたところに多数の星が連続で爆発するような目映い光と衝撃が敵を直撃する。
それは確かに、相手を一方的に滅亡させられるだけの魔力のこもった攻撃であった。
「いきなりそれか!」
リュウは、雪鈴を連れて、星滅尽の範囲から逃げようとするが、勿論間に合わない。
爆発の直撃を受けて、雪鈴を庇いながら吹っ飛んだ。
そこでアスランは、間合いを詰める。リュウに駆け寄るようにしながら、北十字星で星光の一撃を放つ。
スターライト・スラッシュ。
星光刃とも書く。
光の速度で敵を切り裂く--あまりにも鋭く、あまりにも速い、アスランの基本技が、リュウを襲った。