今、ここに生きる星-転生したら養女モブ!-
第一章 幽霊少女は英雄を救う
第十九話 友達の逆鱗 4
「えーっと……」
アスランは呆然として、変わり果てたリュウの姿を見た。
それは、ドラゴンの鱗と尻尾、角を持つ人間であった。身長は2m以上。体重はどれぐらいかわからないが、全身に生えた青い鱗の強度を考えれば、相当な重量と思われる。
顔だけは凜々しく美しいままで、リュウは深い湖のような蒼の瞳を、アスランの方に向けた。身長差があるのだから、自然と見下ろす形になる。
「べたな事を言ってもいいか?」
「なんだ?」
「よくも雪鈴をいじめてくれたな」
そんなシンプルな会話で、アスランは事情を悟った。アスランは、雪鈴シュエリンをむげに扱った事で、リュウの地雷を踏んでしまったらしい。否、これは、”リュウの逆鱗に触れた”と言ったところか。
一口に、青龍人と言っても色々ある。
彼らの寿命は、通常、400~500年。中には1000年近く生き続ける青龍人もいる。
そして、彼らの特徴は、年を取れば取るほど、魔力が高まり、様々な奇跡を行い、人間離れした存在になるということだ。
彼らは、元々、カイ・ラーの海に沈没した大陸”ミヌー”で生まれた進化人類の末と言われている。
究極の生命体にも例えられるドラゴンの遺伝子が混じっていると言う流伝もある。
実際に、修行を重ね、高位の魔法を使いこなせるようになった青龍人は、ドラゴンと人間の掛け合わせのような容姿に変身する事が出来る。現在のリュウのように。
何故そんなことが起こるのかは、他の人種であるアスランは知らない。だが、この竜人ともいえる変身なら、まだいい方で、実際には--本当に、修行を積んで魔法を自由自在に操れるようになった青龍人は、本当のドラゴンに変身すると言われていた。恐竜よりも恐ろしく、威厳に満ちた姿を持ち、森羅万象全ての魔法を操り、並外れた怪力を誇るドラゴン。
それそのものに変身し、自由気ままに振る舞うのだという。
アスランは一瞬、芝生に倒れて動かない雪鈴の方を見た。リュウが、雪鈴の事を親戚の娘だと言っていたのは、どういう意味だろうか。アスランは、青龍人が小さな子供のドラゴンを親戚の娘と言うのはてっきりそれらしい冗談だと思っていたが、考えてみれば、リュウは、嘘や冗談を言うような性格ではない。
もしかして本当に--血のつながった、親戚の娘さんなんだろうか。それを、アスランは、力任せの一撃で叩いてしまったのか。
アスランの知っているリュウは、そもそも、テラ大陸ではなく、シャン大陸にある高山地帯の秘境の村の出身である。
彼自身はおよそ100年前にその秘境に生まれ、世間から閉ざされている故に極貧の村で一生を終える事が多い、家族や親族を支えるために、世界中を飛び回って冒険し、冒険譚とともに少なからぬ金子を仕送りしていた。神聖バハムート帝国の魔大戦には通りすがりで参加したようなもので、実際に、バハムート帝国は、魔族の侵略に対抗するには背に腹はかえられず、冒険者の事を高額で雇ってくれたのである。
魔大戦は何しろ、人間の常識が通用しなかった。
魔族は人間じゃないんだから当たり前なのだが。
魔族は人語を解するが、魔界と呼ばれる場所で、人類とは異なる生態系で進化してきた生命体と言われている。
どうすれば魔族と人類の調和と平和が望めるかは、まさしく、アストライアにおける究極のテーマだ。
その難問にあえぐ、非常識な大混戦の中では、生まれがどうとか育ちがどうとか言っていられず、実力だけが生き残る術であった。
実力重視の戦いの中でめきめきと頭角を現したのがリュウや甲兄弟達であり、アスランは貴族の中では珍しいタイプで彼らとも平気で一緒に数々の作戦をこなしたのである。
アスランは貴族だの平民だのという意味のない事に重きをおかなかった。強ければ強い、実力は実力、そういうとらえかたをするタイプだったため、最初からリュウ達からは好感度が高かったのだ。
神聖バハムート帝国は、実力と結果重視で作戦の出来を評価したため、リュウはSSSランク冒険者として、アスランもまた同レベルの冒険者として、帝城に出入り出来るほどの評価を得た。
そういうわけで、魔大戦で巡り会ったリュウとアスランは、身分や種族を越えて、数々の作戦をともに戦い、実によい友人であったし、対等のライバルであった。
だから、アスランが遠慮なく、”親戚の娘さん”を叩いたりすれば、リュウの方だって遠慮なく、竜人変身までして怒ってくれるわけである。
「い、いじめたわけじゃない……その、すまん、リュウ、話を聞いてくれ」
とにかく、アスランは、うろたえた。流石に、竜人変身されたら、アスランだって、敗北必至。
リュウは無表情であった。無表情のまま、氷心を構え直すと、アスランの方に、その鱗まみれの腕をふるって突きかかった。
アスランは咄嗟に素早く横に飛んでかわした。
氷心は渇いた地面に突き刺さった。まるで月面のクレーターのように、十メートル近い範囲の地面が裂けて割れ、続いて真っ白な氷で凍り付いた。
そこから先の事は、アスランはあまり思い出したくない。
とにかく、大戦中でもあり得なかった苦戦だったと思う。
リュウは、氷心を器用に扱い、その巨躯から剛腕をふるい、アスランに突きかかってきたのだ。
突かれなければ蹴られる。
蹴られなければ突かれる。
その巨躯を生かした長いリーチと、パワーは、全くもって理不尽なほど凄まじかった。しかも、先ほどよりもよほどスピードがあって正確性が高い。
恐らく、アスランとて、神妃の盾がなければ瞬殺されていたことだろう。
ミトラの正妃にして山の女神神妃の防御力、それに、ミトラ・プロテクションの防御力双方で、やっとしのぐことが出来た。
それほどに変身したリュウは強く、たちまちアスランを追い詰めた。
アスランは神妃の盾を巧みに操って、防御死守、何とかリュウの攻撃をしのぐのだが、だんだん演習場のコートの隅、魔力障壁の方へと押し切られて行った。
魔力障壁を背中にしてしまえば、もう逃げられる場所などなくなる。
そうなったら、もうひたすら、リュウの突く叩く斬る蹴るの連続攻撃で盾が削りきられ、なすがままのタコ殴りになってしまうだろう。
「くっ……」
思わずアスランはうめき声を漏らした。
彼は今、演習場の魔力障壁に対して、わずか1メートルの距離を取って背中にする格好だった。一発でもリュウの拳が当たれば、魔力障壁に激突し、そのまま煮るなり焼くなり好きにされてしまうだろう。
「アスラン、雪鈴の痛み、味わってもらうぞ」
リュウは、両手の指を組み合わせて、幅広の拳を作り、高々と振り上げた。長身の彼から両手の拳で頭を直撃されれば、アスランの盾は今度こそ削り取られ、彼自身が壁まで吹っ飛んでしまうかもしれない。
アスランは神妃の盾を構えたまま無言だった。これ以上、盾に魔力を注ぎ込む事は出来ない。彼の魔力だって限界があるのだ。
「反省しろ!」
リュウは、アスランに、氷龍槍の一撃を繰り出した。