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今、ここに生きる星-転生したら養女モブ!-


第一章 幽霊少女は英雄を救う


第二十八話 双子姫と皇太子 (2)


 白菊宮のマリは、すぐに青連宮に渡ってきた。
 マリも白猫の尻尾を持っているが、それに合わせたように白い可憐な冬物の長衣を着ていた。腰のベルトの下には穴が開いており、そこから白猫の尻尾が長く伸びている。
 イヴは金髪をふわふわしたゆるやかなウェーブにしているが、マリは金髪をさらりとしたストレートロングにしていた。
 髪型と服装ぐらいしか、双子の姉妹には見た目に分かる相違点はない。本当にそっくり瓜二つであった。

「マリ、また白いドレスが似合うわね。粉雪のように綺麗」
 姉とはいえ、双子のためか、イヴはマリの事をそのままマリと呼ぶ。
「ありがとう、イヴ。イヴも黄色い可愛い花みたいよ」
 マリは優しく笑って妹と誉め合った。
 実際に、イヴは華やかな黄色い花をあしらったドレスを着てアルマの隣に座っていた。そうしていると、イヴはさすがに黄蘭宮の主で、陽光の衣を纏ったように華麗で優美であった。
 それならば、青蓮宮のアルマが、青い衣装を着ているのかというと、違う。彼女は、金糸で帝国を表すバハムートの紋章を縫い取った黒いチュニックに、黒いゆったりとしたボトムを合わせていた。それに黒い編み上げブーツ。
 肩の上で切っている黒髪と、金色にたとえられる琥珀の双眸に合わせたのであろう。
 実際に、アルマは黒を好んで華やかに着こなす癖があり、周囲から”闇姫ダークプリンセス"と呼ばれるほどであった。
 実際に、17歳にしては豊かな胸が目立つ事がなければ、黒い上下をスマートに着こなした、ユニセックスな魅力に溢れるアルマが、少女であることに気がつかない者はいるかもしれない。

「アルマ、お養母さまのこと、聞いたわ。私、さっき紅梅宮にジェムの鳥を飛ばしたの。そうしたら、お養母さま、カモミールティを召し上がって休んでいるみたいよ。体調が悪くて食事が喉を通らないのだけれど、香りのよいお茶なら飲めるんですって。そういうの、私達で用意したらいいかもしれないわね」
 そう言いながら、一番上の姉は、いもうとたちの座る長いソファの手前の丸いソファに座った。
 アルマは、頷いた。そうして、控えている侍女達に目配せをして、皆の分の茶を用意するように指示をした。
 侍女達は速やかに、皇女達に出すお茶の盆を用意し始めた。

「ああ。マリ、ありがとう。そうだな、俺も何か喉にいいお茶贈ろうかな」
 アルマの言葉遣いを聞いて、イヴはまた睨むような仕草をしたが、諦めて、自分もマリに向かって頷いた。
皇后の好きな香りの事などを考えて見舞いの品を贈りたいと思う。

「マリ、今、黒狼月の祝いの話をしていたの。マリは、黒狼月の祝いに、誰を招きたい?」
 イヴが気安くそう尋ねると、マリは首を傾げて考えこんだ。

「内輪の催しよね。だけど呼ばない訳にはいかない人達もいるわ。例えば左府様のお嬢様のアガタ様でしょう。それに兵部郷の宮の姪御様のマクシミリアーネ様、それから最近、式部卿のご子息とお噂の、フランチスカ様、他に……」
 いきなり、自分より十歳も二十歳も年上の貴族の女性達の名前をあげはじめたマリであった。
「待って、マリ。それは本当に招きたい方?」
 慌ててイヴが止めた。
「え?」
「それは、招かなければならない方々だろう? マリが呼びたい人は、誰」
 アルマがそう尋ね直すと、マリは、また少し考え込んだ。

「陛下を呼びたいわ、それから、読書会の友達、呼んでいいかしら?」
 式部卿の名前が出たが、マリは、20歳ながらに、帝国の福祉や教育について、随分と勉強している方だった。それで、文官の人事や学校を司る式部卿フィリップ・フォン・エスターライヒの息子、ミヒャエルの近況の事も知っているのである。
 また、彼女は貴族を始め上流階級の娘を中心に、文学、魔法学から科学まで、幅広く本を読んだり紹介し合ったりする読書会を持っており、その中に特に気の置けない友達が何人かいるようだった。

「いいと思う。私も、ピアノや音楽の仲間を呼びたいし」
 同じく、イヴは音楽を始め、広く芸術の勉強をしている。足が悪いために、滅多にコンサート会場などには行けないが、年に一回の帝国の音楽祭には、必ず座席を取ってコンサートホールに駆けつけるのだった。
 神聖バハムート帝国では淑女のたしなみとされるピアノは、非常に高レベルで、プロのピアニストと比しても遜色はない。将来は、帝国における音楽や芸術の振興と普及のために尽力したいと思っていた。
 その結果、数少ない友達はどれもよい音楽仲間である。

 二人とも、魔大戦など戦争中には福祉や芸術など、全く見向きもされないことなのだから、友達とも疎遠になり、自分たちは皇族ながら戦い続けるハメになっていた。そのため真っ先に、自分の趣味の仲間達の事を思い出したのだろう。

「ああ、それはいいわね。久しぶりに、気心おけない、趣味の仲間と、ゆっくりお月見したいわね」
 マリはイヴの気持ちをよく理解してそう言った。

「アルマは、どうするの」
 それからマリはアルマの方を見た。
「……俺かぁ。呼ぶのは男でも女でも関係ないんだよな?」
「それはそうよ。女の人の方から招待されたなら、男の人でも入っていいのが、月見の祝いだもの。もしかして、お師匠様の仲間を呼ぶの?」
 珍しく遠慮しがちなアルマに対して、イヴがそうおっとりと尋ねた。

 お師匠様というのは、アルマのために常日頃、武道の稽古をつけてくれる師範の事である。つまり、アルマの子供の頃からの武芸全般の家庭教師だ。
 これが、珍しい事に、オノゴロ島出身の武道家で、帝都シュルナウに三十年前からすんでおり、オノゴロ王国の伝統や文化を伝える事が大好きである。何故彼が、アルマの師匠になったのかというと、事情は結構複雑なようで単純だ。
 帝国初の女性皇太子が、剣術を志す際に、前例がないため、他の高名な騎士達が皆嫌がったのである。気が進まないと、平気でアフマド二世にも難色を示した。裏を返せば、女性皇太子には反対という意味もあったのだ。
 それで、アフマド二世は、思い切って騎士道以外……武士道を志して、シュルナウで道場を開いていたオノゴロ島のカイエンという男に、娘の剣術の稽古を依頼した。カイエンは快く承諾し、以後、十年以上、アルマの剣……というより刀の稽古の面倒を見てくれている。

 アフマド二世の作戦は功を奏し、今のところ、アルマは、同年代どころか一回り年上の騎士の本気の剣でも平気ではねつけ、切り倒せる程度に強い。また、アルマの師匠ということで、外国人ながらカイエンの人気も高くなり、道場はここのところずっと盛況である。

 オノゴロ島の文化を教える事が好きなカイエンを招いたら面白い話を聞けるだろうし、同門の弟子には魔大戦で身分の上下問わず、活躍した者も多い。それこそ男女関係なく、お互いに、無事に生き延びた事を喜びたいし、近況も聞きたかった。
 
「師匠と、師匠の弟子で仲のいいやつ、何人か呼ぶよ。後はなんといっても、アスランだろ」
 アルマはさらっとそう言った。
 帝国直下の冒険者ギルド、即ち帝国が認めたSSSランク冒険者にして、ジグマリンゲン宗家の次男。彼と、魔大戦でパーティを組み、魔王を倒したのはもう去年の事である。月日がたつのは早い。
「待って、アルマ。アスランは今……」
 マリがそう止めようとした。
「暗殺のこと?」
 アルマは、女官が持ってきてくれた熱いお茶を湯飲みで飲みながら言った。

「そうよ。アスランは今、大変な時なのよ。無防備に外を出歩いたりしたら……!」
 イヴまでそういう。
「だからだよ。話、聞きたいだろ」
 アルマは短い黒髪をかきあげながら言った。

「アスランが表で無防備になるときって、いつ? 俺のところまで、アスランの事件の報告が、なかなか来ないんだけどさ。弾正台は俺の管轄じゃないし、それなら、アスランはどれぐらい事件のことわかってるのか、直接聞こうかと思って。警備になら、キノエをつけるし、なんだったらユキも呼んでアスラン守って貰うし」
 それから、アルマはなんでもないことのように平然と言った。

「勿論、リュウも呼ぶよ。リュウに会いたいだろ、イヴ」
 アルマに何でもない顔でそう言われ、イヴは全く素の顔になった。
 意表を突かれたその顔が、みるみるうちに真っ赤になっていく。真っ赤になった後、イヴは、アルマの肩を叩いた。背中を叩いた。ぽかぽかと両手で彼女の事を叩き始めた。無言で叩いた。
 そうして、白猫の尻尾でソファの上でのたうたせた。声が出ていなかった。
 アルマの方が唖然としていた。



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