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今、ここに生きる星-転生したら養女モブ!-


第一章 幽霊少女は英雄を救う


第三十二話 黒狼月の祝い(2)


 何故に、風精人ウィンディの皇帝と皇后の実家ビンデバルドのある国で、地獣人モフの姫君達が皇后の座についているのか--。

 それは、アフマド二世の前皇帝、アフマド一世の代、さらにその前の、イクバル五世が、自分の息子を自力で立太子出来そうもなかったという事情まで遡る。
 イクバル五世はやはりビンデバルドの母と妻を持つ典型的な風精人ウィンディの皇帝であった。それは、舅に生涯頭が上がらず、帝位にありながら自分の権力や財宝は全てビンデバルド一族にかすめとられるという意味でしかなかった。

 イクバル五世の皇妃カトラインの代で、合計七代の間、ビンデバルド一族が皇后の座をしめていた。最初はともかく、イクバル五世の代ぐらいになると、皇帝は皇妃に息子を産ませるための道具で、息子が生まれたらとっと座を退き、幼帝を掲げて摂政、太政大臣に、舅のビンデバルドが就くのが当たり前、常識だったのである。
 イクバル五世は、よりすぐりのビンデバルドの姫であるカトラインの美貌にも貞淑さにも文句はなかったが、何かと自分をこきおろし、弱体化ばかりはかってくる舅には嫌悪と憎しみしかなかった。
 イクバル五世には、アフマド一世と言う長男と、ワーフィルという次男がいた。どちらもカトラインの産んだ可愛い息子である。
 イクバル五世は、アフマド一世の方が長男であるのだし、多少、頑固で短気な面は目立つがまずまず有能、真面目で芯のしっかりした彼が皇帝になるのは当然と思っていた。ところが、皇后の実家ビンデバルド家が、イクバル五世から見ると間抜けでだらしない、ビンデバルド宗家から見ると愛嬌があっておっとりしているワーフィルの方を皇帝にしようと色々運動し始めたのである。
 それがどういう意味かというと、しっかり者で、怒る時は怒るアフマド一世よりも、ワーフィルの方が間抜けな分、操縦しやすいという事に他ならない。
 これで怒ったのはイクバル五世である。皇帝、帝位というものを、ビンデバルド宗家がどう考えているのかよくわかったと思った。
 イクバル五世は、アフマド一世こそ自分の嫡男と公言してはばからないようになった。すると、ビンデバルド宗家と年中戦う羽目になり、何事もうまくいかなくなった。最終的に、イクバル五世は肺を病み、長い間床に就く事になる。
 父親から期待をかけられている自覚はあったアフマド一世は、当然ながら自分こそが帝国の後継者で、時が来れば立太子出来ると思い込み、真面目な気性から勉学にも武術にも励んでいた。
 だが、間抜けのはずのワーフィルが、ここぞという時はビンデバルドと手を組んで妨害してくる。社交的な場は特に息がしづらいような目に合わせてきた。
 社交……貴族社会で、このままでは、ビンデバルドに全てを取られてしまうと勘づいたアフマド一世は、自分の父を病気にして退位に追い込もうと虎視眈々と狙っている、ビンデバルド一族を一掃できる手段を頭を振り絞って考えた。

 そこで彼が目をつけたのは、ガザル自治区である。
 風精人ウィンディの人口の多いこの国では、地獣人モフ紅魔人ブレスは何かと迫害を受けやすい。見た目から始まる偏見は根が深く、当時、地獣人モフ達は帝国の中に自分たちだけの王国を作れる自治区を作り、そこに集まって彼等だけの文化を伝承し、彼等だけの歴史を作ってきていた。
 その地獣人モフの姫を、「けだもの」と言ってはばからないビンデバルド。
 当然ながら、地獣人モフの血統や能力など、見向きもしていないだろう。だが、相手も、「国の中の国」の王統であり姫なのである……。
 というわけで、アフマド一世は、ガザル自治区に身分を偽って、差別問題の根深さの調査に赴いた態を装い、地獣人モフの王統の方まで近付いていった。
  アフマド一世から見ると驚いた事に、地獣人モフの姫長と呼ばれる、女性指導者は、血統主義者ではなかった。
 地獣人モフの呪術や魔法のスペシャリストの中で、よりすぐった女性を、先代の女性指導者とその補佐官達が選別し、最も優れた女性を次の姫長に据えるのである。その場合、血統や、しがらみなどに偏らないように、厳正に姫長としての能力があるかどうかだけを見極めるように、数々の細かいルールがあるのだ。
 要するに、身分も差別も関係なく、最も優れた女性だけが姫長に選ばれる--そういう制度だったのである。

 実際に、アフマド一世が出会った姫長は博学で聡明で、美しく、武術にも長け、政治的な武術にも長けていた。
 姫長に、特別にと頼んで、次期姫長として見込んでいるのはどなたかと、丁寧に尋ねたところ、当時の姫長は躊躇したようだったが、……恐らく、相手がアフマド一世と見破っていたのだろう……自分の秘蔵っ子のアルタンツェツグ姫を紹介したのである。アルタンツェツグ姫は狼の地獣人モフで、気高く、しなやかな優美さを持つ姫であった。
 若いアフマド一世はたちまちアルタンツェツェグ姫と意気投合し、帝国の未来やガザル自治区の未来について夜更けまで語り合う事となった。
 アルタンツェツグ姫も、アフマド一世を憎からず思っている事は、その話し方や笑顔でわかった。

 そういうわけで、アフマド一世は、ビンデバルドの姫に対抗しうる、ビンデバルドの息がまるでかかっていない姫に目星をつけたのである。
 その頃にはビンデバルド一族も、アフマド一世の様子がおかしい事に気がつく。ビンデバルド一族の本命は弟のワーフィルだったが、アフマド一世にも、ビンデバルドの姫を押しつけ、その子を作って貰わなければ困るのであった。

 その頃、アフマド一世にあてがわれたビンデバルドの姫は、ユリア・コーネリアという。
 宗家の姫で、のびのびと育てられた、天衣無縫で屈託のない美少女であった。
 アフマド一世が、なまじ頭がよく、そしてビンデバルド一族へ反感を抱いていないのだったら、宗家も彼を帝位に就けるはずだったのである。そのため、幼い頃から、アフマド一世はユリアと接触させられていた。

 そのユリアだったが、宗家が皇帝をワーフィルにしようとしたために、親からいきなり、それまで一緒に遊んでいたアフマド一世から離れて、間抜けなワーフィルと遊べと言われた。
 彼女にしてみれば、親が何でそんなことを言い出したのか訳がわからない。だが、ワーフィルの事も嫌いではないので、何度か一緒にパーティに行ったりはした。
 だが、元々は、自分が皇帝になるであろう長男の嫁になるのだと思いこんで生きてきたため、ワーフィルと取り立てて打ち解ける事はなかった。本人は。
 所が、ビンデバルド宗家にしてみれば、既に皇帝はワーフィルにする気なのだから、アフマド一世の方に、

「皇帝の座でありながら差別問題に手を突っ込もうなどと愚昧な考えを持つのなら、ユリア・コーネリアと帝位はお前から取り上げてワーフィルにやる」

とあからさまな意思表示を行った。
……ビンデバルド宗家は、若者が、愚かにも、帝国最大の悩み事である地獣人モフ差別に近付いて、自分が英明で進取の気性に富んだふりをしていると思ったのである。単純に。

 元々、ビンデバルド宗家にコンプレックスがある上に、ユリアが1~2回、パーティでワーフィルと遊んだ事を聞いていたアフマド一世にしてみれば、どう見えただろうか。

 ユリアは浮気者に見えたし、ビンデバルド一族は悪魔の一族に見えた。

 その挑発を受けた後のアフマド一世は、電光石火の勢いで、自力で、地獣人モフの次期姫長であるアルタンンツェツグと結婚すると、自前で用意したパーティで発表したのであった。

 それぐらい、ビンデバルド一族に対して、イクバル五世の代、アフマド一世の代から、苦悩と憎悪は募っていたのであった……。


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あとがきなど
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