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今、ここに生きる星-転生したら養女モブ!-


第一章 幽霊少女は英雄を救う


第三十四話 黒狼月の祝い (4)


 地獣人モフの姫が神聖バハムート帝国のアル・ガーミディ皇室に迎え入れられた後、狼の耳の皇帝や、皇太子が誕生した。
 そのほかに、猫の耳と尾を持つ双子姫が存在する。どちらも、同じ地獣人モフの母、アルタンツェツグ皇后から生まれている。
 何故そういうことが起こるのか--。

 それは、地獣人モフだけの持つ、守護霊アウマクアと呼ばれる遺伝子の寄る。
 地獣人モフは家系により、いくつかの守護霊を持つ。一つの家系に、一つのアウマクアということはまずない。
 守護霊は、鯨、イルカ、犬、猫、狼、羊、蛇、蝶、亀、その他諸々、多岐にわたる。そして、そのアウマクアとは遺伝子と重なっており、次に生まれる子がどんな形態を持つ地獣人モフになるかは、誰にもわからないのだ。

 例えば、アルタンツェツグ皇后のアウマクアは、狼、猫、鳩、鷲であり、彼女が産んだアフマド二世は狼のアウマクアの遺伝子が顕現したらしい。それに対して妹のサーリアは、白い猫の遺伝子が顕現した。
 その後、アフマド二世が迎えたエンヘジャルガル皇后のアウマクアは、狼、犬、亀である。アフマド二世は、アルタンツェツグと同じく、狼、猫、鳩、鷲。この場合は、両方のどのアウマクアが出てもおかしくないという話だが、偶然、狼と狼のアウマクアが重なって、アルマは狼の地獣人モフとなった。

 そういう特殊な遺伝子を持つ上に、アウマクアは様々な特殊スキルを与える。超能力のような視力や聴力、そのほかにも筋力、快復力だけではなく、独特の魔力も授ける。その独特の魔力や、紅魔人ブレス青龍人ドラコにも勝る体力や超感覚を用いて、地獣人モフの女性には頻繁に呪術師や魔術師が育成される。風精人ウィンディとは全く違う魔法体系なので、一般に、呪術師、魔術師と呼ばれているのだ。
 呪詛と祝福を自由自在に使うのは、地獣人モフの文化内では、女性の役割になることが多い。男性もいないわけではないが、多くの男性は、魔法ではなく、持って生まれた体力、腕力、超感覚を研ぎ澄まして、青龍人ドラコを越えるほどの超戦士になることを目指す事が多い。
 そのパワーは、地獣人モフ女性の持つ魔術を遙かにしのぐ事もある。……修行次第であるが。
 実際に、地獣人モフの男性は若いうちは、小型の機動馬ヴィークルならば購入しないことが多い。どういうことかというと、地獣人モフ男性は普通に走っていても、現代日本で言うならスクーターよりは速いからだ。戦闘中などに、本気で走って、時速300㎞を越えるスピードで体当たりをかましてくる事もあるらしい。
--その地獣人モフ男性を手玉に取ったり対等に渡り合ったりするために、女性達が結託して磨いてきたのが、地獣人モフ独特の魔術や呪術である、と言われている。
 何故、ガザル自治区に、女性の姫長しか存在しないのかは喧々諤々言われており、文化人類学などの学者も意見を持っているようだ。
 だが、姫長の補佐官は女性と限った事はなく、男性の数も半数は入れられているようである。
 風精人ウィンディ地獣人モフを好まないのは、獣じみた見た目で、国内では少数民族というだけではなく、自分たちと違う能力に基づく文化に、違和感を持っている事が多い。特に、地獣人モフの男性の、魔法に関わらず常時発動出来る、超体力、腕力に畏怖を抱いているのではないか--と、冷静な学者達は言うのであった。

 その地獣人モフの血を半分引くのが、現皇帝アフマド二世である。
 娘のアルマに至っては1/4。

 現皇帝アフマド二世が、狼として時速300㎞で走って、相手に体当たりをかませるかというと、実は出来るらしい。魔大戦中も、やってみせたことはないが。
 そのほかにも、アウマクアから様々なプレゼントを受け取っている上に、元々、風精人ウィンディの優れた風系魔法のプレゼントを受け取っているため、風の魔道士であると同時に狼の超回復力と体力を備えた戦士ということになる。
 流石に、風の魔法に関しては、風と音を司る老舗のビンデバルドには一歩劣るが、そこは、地獣人モフなら地獣人モフらしい能力で十分対抗しうると、本人達は信じていた。
 地獣人モフの血を入れるということは、それなりのリスクを負う覚悟はあったのだが、同じぐらい、メリットもあったのである。
 娘の1/4狼のアルマに至っては、風の魔法は正直大した事がないらしいが、幼い頃からの修行と持って生まれたセンス、それに高いモチベーションを生かして、父を越える超回復力と超体力、それに華麗な戦闘センスと明朗快活な性格に恵まれているらしい……。
 要するに、この父子、父子そろって文字通り、殺しても死なない体力と戦闘力に恵まれているのだ。

 そのアルマだが、昼食後、そろそろ黄蘭宮に移ろうかと着替えをしようとした際に、女官に呼び止められた。
 女官が、アフマド二世の使う伝書の鳥--鳩を渡してきたので、アルマは父親とだけ決めたパスワードを唱え、父からの伝言を見た。

「えっ……陛下」
 驚いた声を立てたアルマに、女官がいぶかしみ、尋ねるような視線をアルマに向けた。
 アルマは父親からの手紙を綺麗に折りたたんで、笑って見せた。
「何でもない。陛下は、公務が忙しくてらっしゃる。来られるのは大分遅くなるとのご連絡だ」
「そんな……姫は、楽しみにしておられましたのに」
 女官は、目を見開いて嘆いた。
「仕方ないだろ。公務は公務だし、こちらは内輪の集まりなんだから。新年早々頭の痛い件もあったし」
 アルマは肩を竦めてそういう。
「それは……そうですが」
 今日の来客でもあるアスランの事件で、貴族や権力者の間に様々な憶測と余波が飛び散り、そのとりまとめと調整に、アフマド二世がずっと働き続けているのは、女官達も分かっているのだった。
 だが、娘との内輪の集まりぐらい、来てくれてもいいのに……と残念がっているのが顔に出ている。
 実際、アルマは、久々に父親と遊べると思い、喜んでいたのである。

「父上、今日も朝早くから朝議に出て、そのあともずっと戦いっぱなし。本当に、俺と同じ地獣人モフの体力がなかったら、倒れてしまっているよ……俺も、父上にゆっくりと、気疲れから離れて、休みを持って欲しいと思うけど、それは、アスランの件が無事解決してからだろ?」

「はい……そうですね」
 楽しみにしていた祝いを半ば蹴られても、平然として笑っている娘の様子に、女官の方もようやく笑った。

 アルマは口には出さないがわかっている。アスランの件が解決したとしても、皇帝の仕事というのは次から次へと大小取り混ぜて連続しており、きりのいいところなどあるわけがない。アルマは、十代ながらに、父親の仕事を観察する癖がついているのでそのことには気づいていた。だが、自分を慰めようとする女官に気遣いを見せて口でそう言って見せただけだった。

 そういうわけで、アルマは父親が途中参加になったことを、伝書の呪文を使って参加者に知らせた。


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あとがきなど
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