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今、ここに生きる星-転生したら養女モブ!-


第一章 幽霊少女は英雄を救う


第三十七話 黒狼月の祝い (7)


 アルマはアスランの方に気がついて、気さくに笑いかけた。
 そうすると、琥珀色の瞳が黄金にきらめき、快活で輝かしい印象を与える。
 実際、アルマは、地獣人モフの大変な美少女ではあったが、それよりも、生命力溢れる元気さと、打てば響くような明朗な返事が印象的な皇太子であった。

 頭の上に二つ、狼の耳があり、満月の衣装の袴の腰からやはり真っ黒な狼の尾を伸ばしている。それらの衣装は今日のためにあつらえたものらしかった。

「アスラン! それにエリーゼ、来てくれてありがとう」
 なんと、アルマは、エリーゼの事をよく覚えていたようだった。
 エリーゼの方がびっくりしてしまう。

「……エリーゼ……?」
 令嬢や貴婦人達は、それまで地味にアスランの後ろに引っ込んでいた、銀髪の長い三つ編みの少女に気がついて、扇で顔を隠しながら何事か話しあって確かめ合っている。

 正月早々、暗殺されかかったアスランを、いきなり走って飛び込んできて救った少女の名前がエリーゼといい、左右に長い三つ編みをお下げにしていることは、知られているようだった。
 そのことにより、宮廷すずめ達は、ぴいちくぱあちくと色々喋り倒してきた事もあって、気後れして、遠巻きにエリーゼの方を見ている。
 エリーゼは、そのことに気がついて、弾正台の時とは違う緊張をまた感じた。弾正台では、様々な事を、若い女性の官吏に尋ねられたが、ここでは色々質問してくれる女性がいるかどうかもわからない。

 だが、そんな空気は全く気にしなかったのが、アルマだった。あるいは気がついていた上での行動だったかもしれないが。アルマには、そういう、キノエにも似た考えが読めないところがある。

 アルマは席から立ってまっすぐに、アスランとエリーゼの方に向かってきた。
 武術に秀でた凜々しい黒髪の皇太子が近付いてくると、エリーゼは自然と後ずさりしそうになったが、背中はアスランが守っている。

「救国の英雄の命を救ってくれてありがとう。帝国皇太子として礼を言うよ。アスランは、俺の大切な仲間でもある」
 イヴがいないせいか、アルマは、自分の事を”俺”と言った。

「は、はいっ」
 咄嗟にエリーゼはそう言って、慌ててアルマに頭を下げた。
 他にどうすればいいかわからなかったのだ。

「そう固くなるなって。今日はみんなでゲームをするような内輪の宴だ。是非、楽しんで欲しい。--アスラン、ゲームのルールは、伝わっているんだよな?」

「勿論。今夜は飛ばしますよ。ですが……」
「ああ、鳩で知らせた通り、陛下は間に合わないかもしれない。そのかわり、エリーゼが来てくれたから」
「なるほど」

 アスランとアルマの会話を、エリーゼは自分なりに解釈する。
 確かに、今夜は、月見の宴だが、満月の下、屋外でゲームをするという話は聞いていた。それで、アスランは微熱の呪文を知っているなら使えと言ったのだろう。

 そのゲームは、二人一組ですることになっていたため、陛下が欠席になると一人余ってしまう計算になる。だが、そこに、偶発でエリーゼが一人追加されているため、ちょうど計算が合う事になったのだ。

 その会話を聞いているうちに、令嬢達の表情が和み始めた。
 自分たちが楽しみにしていたゲームが、エリーゼのおかげで滞りなくすすめられそうだと思ったらしい。
 新年早々、英雄の暗殺事件、それにまつわる様々な余波にてんてこ舞いのアフマド二世が、宴席に遅れるのは仕方がない。そこは誰も恨まない。
 むしろ、ちょうどよく数が合うようになったことの方が嬉しいのだ。

「じゃあ、俺も飛ばさせてもらおう。俺、新技を試してみたかったんだよ」
「殿下、はしゃぎすぎは禁物ですよ」
「それを言うなよ。……人に怪我させたりはしないぞ、俺は。何でも寸止めで頑張ってやる」

 アルマはそう言って笑い、アスランとエリーゼを連れて、カイエン達のいる方に戻った。

「お久しぶりです、カイエン殿」
「オウ、アスラン。元気そうだな」
 アスランとカイエンは親しみを込めて握手をしている。

 三十年前、シャン帝国の東の島国、オノゴロ王国と帝国の国交が開かれた際に、留学生が交換された。そのときに、オノゴロ王国の武術、そして武士道を広めるためにやってきたのがカイエンである。その後、三十年間、一途に帝都シュルナウで道場主を勤め、オノゴロ島の武術と文化を広めると同時に、自らも外国の騎士達とぶつかり合って強さの高みを目指してきた。
 そして現在は、皇太子アルマから信頼される、剣の道の師匠である。
 そういう快活で情熱的、しかも頭の良い武道家モンクは、アスランやリュウ達と相性が良く、魔大戦の最中に交流が芽生えたらしい。

「あなた、エリーゼさんって仰るのね」
 そのとき、エリーゼより7~8歳ほど年上の風精人ウィンディの貴族の令嬢が近付いてきて話しかけてきた。
「はい……」
「私、フランチスカ・フォン・ラングよ。アンハルト侯爵家に最近、入られたって聞いたのだけれど、ご実家は大雪原のずっと北って本当?」

「はい。生まれは湖のほとりのデレリンで、それからビエルナスに……」
「聞いた事ないわ」
 言いかけたエリーゼをフランチスカはバッサリと斬り捨てた。
 エリーゼは口をつぐんだ。

「ラング家の所領は、フォーテンにあるのよ」
「……」
 エリーゼは、考え込んだ。正直、フォーテンも聞いた事の名ような田舎であるはずだ。帝国は広い。大雪原から来た人間にとって、帝国中央部の片田舎の芋しか生えていないような農業地帯の事を、知っている人間が何人もいないだろう。
 だが、何しろ、エリーゼはカメラ機能を持つ少女である。
 恐る恐る口を開いた。

「知ってます。フォーテンって、芋が美味しいんですけど、交通の要衝として栄えているんですよね。フォーテンを通らないと、西部にも南部にも、シュルナウにも来られないから」
「!」
 何を予想していたのか、フランチスカは驚いたように目を見開いて、まじまじと15歳の少女の眼鏡をのぞき込んだ。

「交通の要衝地帯で、街道だけでなく、大河のストラ河を利用してうまく発展してきたところでしょう。確かにシュルナウやライヒのようには目立たないけれど、色々なところに行けるし、便利でいい都市だって聞いた事あります。フォーテンの都も、道路が整備されて綺麗なところだって」
「……そうよ」
 フランチスカは戸惑った表情で言った。
「何歳なの」
「15歳です」
「学校は」
「デレリン貴族学院です」
 ステップした事は教えなかった。悪目立ちしたくない。

「デレリンの学校じゃ、そんなことも教えるの。……ちょっと待ってて」
 フランチスカは、一回、物珍しそうにエリーゼを見ている女性達の間をくぐり抜け、すぐに、27~8歳ぐらいの、やはり貴族の青年を連れてきた。

「この人、式部丞のミヒャエル様よ」
 鼻をうごめかしながら自慢げにフランチスカは言った。
「ミヒャエル・フォン・エスターライヒです。お見知りおきを」
「エリザベート・ルイーゼ・フォン・アンハルトです……」
 挨拶と自己紹介を終えた後、式部丞は眼鏡をクイッとあげてしげしげと15歳の貧相な幽霊少女を見つめた。

 式部省は、主に、学校教育などを司る、現代日本で言うのなら文部科学省のようなところだと、エリーゼは把握している。そこの、若いながらに出世株、ということだろうか。ランクは子供故によくわからない。

「フォーテンの事をよく知っているらしいね」
「知ってるってほどでは……」
 クラウスに与えられた百科事典50冊を丸暗記しているだけだ。百科事典に載ってる事は知っている。
「それじゃ、エスターライヒの所領の事は知っているかい?」
「リヒトホーヘンです」
 エリーゼは即答してしまった。
 フォーテンの事は知っているのに、リヒトホーヘンがわからないと言ったら、式部丞に失礼のような気がした。
「フォーテンに近い、ストラ河を利用した河の都と読み……教わりました」

 式部丞は、目に見えて喜んでいるようだった。
「学校でよく勉強したんだねえ、君。デレリンでは、どんな先生から教わったのかな」
 文部科学省の青年にしてみれば、小さい子供が一生懸命、学校で勉強して成果を出しているように見えたらしい。

 最初は意地悪でつっかかるような雰囲気だったフランチスカだったが、自分の恋人が小さい子供と思って誉めているのを見て、喜んでいる顔になった。


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あとがきなど
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