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今、ここに生きる星-転生したら養女モブ!-


第一章 幽霊少女は英雄を救う


第三十八話 黒狼月の祝い (8)


 月が中天高く昇る時刻となった。
 凍てつく夜空にちりばめられた満天の星々が、目映い月光にかき消されていく。
 月白の光を放つ大円の華は、青を溶かした漆黒の空を悠々と渡り、遙か西の黒々とした峰の頂を目指していた。
 セレネの青みがかった白銀の輝きは冷たく冴えた刃のように地上に突き刺さり、真っ白な雪に覆われた庭の木々を凍らせるようだった。
 昼間で降り続けていた雪は、庭に積もり、頭上遙か見上げるような木蓮の大樹さえも、半ば雪の中に埋めてしまっている。その庭を何とか歩けるように、雪を片付けた黄蘭宮の役人の努力の跡は、確かに見られた。
 銀白の雪の道は、庭全体に植えられたミモザの木々にそれぞれ通じている。まるで蟻の巣か蜘蛛の巣のように細い道が、庭中細かく通じていて、その道の左右は自然に出来た雪の壁として氷のように固まっていた。
 それほどに寒かったが、貴族や王族達はたしなみとして魔法が使える。それぞれに微熱の魔法や他の魔法を使って手足を温めた。
 それが使えないモンクなどは、そもそも体温が高かったし、どうしようもない子供達はカイロを持ってきていた。

 その頃にはマリやイザベラにも挨拶を終えたーー意外にもマリ姫とイザベラは親しく話し込んでいた--アスラン達は、案内の女官達に従って、黄蘭宮の庭に出た。
 黄蘭宮の中で最も広いミモザの庭園だ。
 春になると黄色や白の匂うように美しい花を咲かせるミモザだが、今は、雪に負けずに濃緑の葉を見せるのみである。
 広々とした真冬の雪の庭、真夜中だったが、冴え渡る月光とそれを反射する冷たい雪のために見晴らしは良かった。

 耳が凍り付きそうな寒さだったが、各々が魔法や道具を使って暖をとっている。
 そのほかにも、園内には、|花水晶《クロリス》のジェムを使った安全なストーブがあちこちに置かれているようだった。
 ゲームが終わったら、撤去されるのだろう。

 今回のゲームの内容は簡単なものであるが、アルマが連れてきた黄蘭宮の女官が、再度、丁寧な説明を行った。

 園内のミモザの木々の下、雪の中に、五色の小瓶が埋められている。

 五色の小瓶とは、赤、青、白、黄、黒のいずれかの色の小瓶で、中には安全な酒が入っている。

 園内を、二人一組のペアで、小瓶を同じ色のものを二つ集める。赤なら赤で二つ、青なら青で二つでワンセット。

 そして、園の一番奥にあるミモザの木の下にいる、黄蘭宮の女官の元に向かう。先についた方が勝ち。

 瓶を集める最中に、ブッキングしてしまった場合は、相手に怪我をさせない程度になら魔法を使って妨害したり、戦闘したりしてもかまわない。
(園内には見張りの忍びや冒険者をまぎらわせているため、違反があった場合は中断される)

 先着順に一位~三位まで、黄蘭宮からプレゼントが渡される。

 最下位のペアは、みんなの前で小瓶の酒を飲み干すこと。酒は普通のワインだがちょっと恥ずかしいかもしれない。

 そういう、ミモザの庭園全体を使ったゲームなのであった。
 伝書の呪文で、今日はこのゲームをすることは伝えてあったため、誰も驚くモノはいない。むしろ、先着順のプレゼントの中身が何であるかについて、興味津々である。

 広間の段階で、多くは男女で、それぞれペアになっていた。
 アスランは当然のように、エリーゼにペアの申し込みをしていた。
 彼はリュウと組むと思っていたエリーゼはびっくりしたが、リュウの方は足の弱いイヴをいたわり、彼女と組んでいた。それを知って、エリーゼはそういうことかと納得した。

(漫画内でも、リュウは弱者や女性にとても優しい男前の性格で描かれていたもんね。いい人だから……。アスランだって、自分が私を招いた手前もあるし……)
 などと色々考えつつも納得した。

 夜空に煌めく月の光を浴びながら、エリーゼは白い息を吐き、隣のアスランを見上げた。彼女よりも、30㎝近く背の高いアスランは、やはり空中に白い呼吸を見せながら、銀髪の間から尖った耳をのぞかせ、庭園の奥のミモザの木を見透かそうとしている。夜、この位置からは、一番奥のミモザの木は見えないが、方向だけでも確かめているようだった。

「エリーゼ、絶対に一位を取ろうな!」
 エリーゼの見上げる視線に気がつくと、アスランはそう、歯を見せて笑ってみせた。
「い、一位!?」
「俺とお前だ。当然だろう」
 はっきり言ってしまうアスランに、エリーゼは目を白黒させる。エリーゼは走るのは速いが、英雄クラスの男女達とは違うし、何よりもまだ成長途中の子供だ。
(でも、アスラン様は一位を取りたいんだ。そりゃそうよね……私、足手まといにならないように頑張らなきゃ!)
 真剣にゲームを楽しもうとしている様子のアスランに、エリーゼは無言ながらも、小さく頷いて返したのだった。

 少し離れた所でリュウに守られ、寄り添われていたイヴは、アスラン達の様子に気がついて思わず微笑んだ。
「姫、どうしました?」
「ええ……何事も、勝負に真剣になるのですね、殿方は」
 笑っている事に気づかれたイヴは、また笑ってそう答えた。
「それは無論」
 リュウは不思議な事を聞いたように首を傾げた。
「私も、姫に一番の勝利を捧げたいと思ってますよ」
 さらりとそんなことを言うリュウ。イヴも全く、エリーゼの事は言えない心境になってしまった。
 目の下を赤く染めながら、イヴはこくこくと何度も頷く。
(そうよね。今日は大勢の人が来ているお祝いの席。ここ一番のところで、SSSランクのリュウに恥をかかせたりは出来ないわ。私だって、雪道なら、みんなと同じように戦える。リュウをしっかりサポートして、私が勝たせてあげるぐらいの気持ちにならなきゃ)
 その一方で、エリーゼよりは年長のイヴは面白がる部分もあった。
(やっぱり、男の人の、勝負事にムキになるところって可愛いわよね)

 しかし。
「マリ。アスランもみんなも、飛ばすって言っている。俺についてこられるな?」
 女性皇太子であるアルマは、自分が選んだ相方のマリに、満面の笑みでそう囁いた。
「飛ばすって、アルマ……お祝いの席のゲームよ? 何をするつもりなの」
 マリは、目を大きく瞬かせてそう答えた。
「祝いの席もゲームも関係ないし、関係ある。どっちにしろ、俺が手を抜いて負ける訳にはいかない。勝ちに行くぞ、マリ」
「そうなの……?」
 むしろ、マリは、宴席の誰かに勝たせてあげるぐらいの余裕があってもいいんじゃないかと思っていた。
「そんなことは、相手にとっても失礼だ」
 武道家を師匠とするアルマは真顔でそう言い切った。
 その師匠であるカイエンは、弟子の中でも優秀な少年と組んで、何やら作戦を耳打ちしている。向こうは向こうで本気なのだろう。

「何にだって全力に当たるのが礼儀だ。マリだって強い、俺たちで優勝だぞ!」
 マリは困ったように眉を下げたが、すぐに笑って頷いた。
「何にでも全力って、アルマ、かっこいいわね」

 ちなみにイヴもマリも、大人しそうな深窓の令嬢に見えるが、魔大戦では、アスランとともに魔王決戦に出陣し、後衛を務めた双子である。当然、か弱い訳でもなよなよしている訳でもないのだった。イヴは確かに走れないが、そのハンデを克服する方法を知っている。尤も、この場合は、細道を入れるような乗り物がないので、本人の言うように慎重に歩いて転んだりつまずいたりしないようにして勝ちに行くだけだが。

「イザベラ様--」
 その一方で、イザベラは、一緒に来ていたマグダレーネと別れ、侍女のバルバラとともに体を温める呪文を唱えていた。
 バルバラはイザベラの、少女とも思えない完璧な呪文の発音に驚いていた。イザベラは、効率よく自分とバルバラ両方の微熱の呪文を唱えると、頷いた。
 そしてバルバラ以外には聞こえないような小声で告げた。
「隙をうかがって、バルバラがアスランに接触すればいいでしょう。どうしてもアスランのガードが堅いようならば、私が何とかします。バルバラ、父上のお願いを聞いてくれますね」
 父上とは父ザムエルの事だろう。お願いではなく、命令なのだが……勿論、断る権利はバルバラことヴェンデルにはない。
 それに、ヴェンデルが、イザベラに10歳も年上の英雄を狙うのは無理があると言ったばかりであった。
 真冬にふさわしい、青い暖かな外套を着込んだ、黒髪縦ロールの宗家の姫は、無駄口は利かずにまっすぐに前方のミモザを見ている。こちらはこちらで、ゲームに勝ちに行く姿勢らしい。ヴェンデルはヴェンデルで、すっかり「バルバラ」という侍女になりきって、三十路の女性らしいクラシカルドレスを着込み、胸までしっかり作っていたのであった。



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