目次

ISEKI

CategoryA
今星
悪か?

GENNDAI

CategoryB
メールメイト
短編

OT0NA

CategoryC
BL

今、ここに生きる星-転生したら養女モブ!-


第一章 幽霊少女は英雄を救う


第三十九話 月下の遊戯(1)


 黄蘭宮の女官が、ゲームの説明を終えた。
 彼女は手に、綺麗に咲いている桃の枝を持っていた。

「それでは皆様……今宵は心ゆくまでお楽しみ下さいませ」

 そう言って一礼し、女官が桃の枝を掲げると、たちまち桃の花が炸裂した。
 花火となって煌めく桃の枝。
 春を告げる桃の花が良い匂いをさせながら花弁を舞い散らせ、花吹雪となる。爛漫と花開く桃の花をイメージさせる花火であった。
 ゲーム開始の合図だった。

 すぐに、ペアを組んだ参加者達は動き始めた。庭園内いっぱいに植えられている、3メートル~5メートル以上のミモザアカシアの下を探すためだ。既に、除雪されて細道と壁が出来ている。まるで雪の迷宮のような庭園の中を、皇女達に選ばれた人間達が、笑いさざめきながら思い思いのミモザを探して散っていった。

 カイエンのように優秀な少年を伴ったり、アルマのようにとびきりの白魔道士の女の子を伴ったりするペアもいたが、男女一組になっているペアが一番多い。
 複雑な迷路になっている寒い迷宮の中を、男性が女性を気遣いながら連れて歩くケースが一番多いようだ。

 白く清らかな月光の下、黒々とした高い木々の下を一つ一つ、魔法で雪を掘り起こして確かめていくのだ。庭園の中に生えているミモザは、百本を超えるとか。そのほかにも、暗闇で紛らわしいが、木蓮、桃、桜など、春の木々の方へも雪の迷路は通じているらしい。他にも、様々な春に咲く草花で栄えているのが黄蘭宮なのだ。

「……」
 というのも、アスランの後をついていったらいきなり桃の木の根元に出てしまったのである。エリーゼは。
 何も考えずに、雪の迷路を突き当たりまで俯いて歩いて行ったら、桃の木だった。

「スマン、エリーゼ。早くミモザを探そう」
「あ、はい」
 それしか言えないエリーゼだった。

 アスランは雪の迷宮を取って返して、次こそ、ミモザを探そうとする。だが、何しろ夜中の八時過ぎの暗闇の中……間違える人間は彼だけではないだろう。

「何故、ミモザなのでしょうね」
 やはり、自分が下を向いてのそのそついて歩くだけじゃだめだ、と気がついたエリーゼはそう言った。
「ミモザ?」
「この庭園にあるものなら、桜が一番高いと思います。植えてあるのが染井吉野のようですから、最高で15メートル。次が白木蓮が10メートルの高さになるし、桃の木なら3メートル~8メートルです。これだけ暗かったら、高い木の陰を探すようにすればいいのに、何故ミモザにしたのか……何か理由があるのでしょうか」
 百科事典50冊、何とかアスランの役に立ちたくて頑張っている。
「なるほど?」
「少し見ただけですけど、ミモザはこの中では5メートルぐらいの高さですし、一番低くて見えづらいと思います。そこが、ゲームの難易度なのかもしれませんけど」
「恐らくそうだろうな。夜目にも目立つ、背の高い桜の木を探すのだったら、すぐにバッティングしてしまう。それよりも、暗い中、背の低い木を探すのは難しい……そういう意図だろう」
 アスランは珍しく歯切れが悪い。何かに勘づいたようだったが、それをエリーゼに知らせないように、彼女に調子を合わせている。

「何か言葉遊びみたいなものでもあるんでしょうか……ミモザには、草の花のオジギソウの事を意味する事もあるし……? オジギソウは別名、ネムリグサとも言いますね」

 貴族のゲームの中に、謎かけや言葉の意味を解くものが含まれることはよくある。
 前世はともかく、伯爵家に生まれ、その後、侯爵家の養女に引き取られたエリーゼは、子供であってもそういう遊戯の意味は少しぐらいはかじっているらしい。

 アスランは、ごまかすために考えなければいけないことが出来てしまった。

「それだろうな。黄蘭宮は、蘭の名を冠する。蘭の木というのは、俺は聞いた事がない。花水晶クロリスならまた別だろうが……ミモザは草花にも樹木にも同じ花のものがあるし、黄色い花が有名だ。そこに引っかけたのだろう」
 アスランがそんなふうに答えると、どうやらエリーゼは納得したらしく、先ほどのように真剣な面持ちで頷いた。
 実際に、蘭は地球上、現代日本の中だけでも230種を持つ。その中には黄色い花も数あるだろう。エリーゼが脳内を検索しただけでも、ファレノプシスからオンシジュームまで色々ある。

(そういえば、黄色の胡蝶蘭って、花言葉がないな……白や桃色はあるようだけど……)
 そういうことを思い出したが、今はミモザの木を探す事が先だ。エリーゼはそう気を取り直し、近視の眼鏡をかけなおしてアスランの方についていった。
 何しろ、本人は遠くのものがよく見えない典型的な近視と乱視の眼鏡っ子。頑張りたくても、そうはいかない場面だったのである。

 一方--。
 アスランは、読書家という触れ込みのエリーゼが眼鏡をかけ直して、気合いを入れ直しているのを見て、何とも言えない気持ちになった。
 彼は、現在、冒険者ではあるが実家のジグマリンゲン侯爵家が、大雪原ではその名を知らぬ豪勇であると同時に貴族である。
 帝都シュルナウの優雅さに負けない華麗さと洒脱っぷりが有名だ。
 そこの次男と生まれた以上、この謎かけには、エリーゼの話を聞いた瞬間気がついて、頭が痛くなってしまった。
 要するに、彼も、子供の頃から女性に花を贈る際の注意点など、事細かに両親に躾けられていたのである。それで知っている事もある。

(イヴ姫!!)

 桜や木蓮に比べて背の低い、黄色い花のミモザの花言葉はいくつかあるが、まさかこう来るとは……。

 黄色のミモザアカシアの花言葉。

 ・優美
 ・秘密の恋
 ・秘密の愛

 この三つだけである。ミモザアカシア全体には、他に、友情、優雅、など色々あるが。「愛情」「純潔な恋」、さらには「気まぐれな恋」などというのもある。

(あなたって人は本当にもう……!!)
 その相手が誰であるかというと、彼女があからさまに慕っているのが誰かというと、アスランの親友で、シャン大陸は華帝国の片田舎から来た冒険者、満百歳になる青龍人ドラコのリュウなのである。
 何しろわかりやすい性格のイヴ姫。前からそうなのではないかと、SSSランクで城にフリーパスのアスランはとっくに気がついていた。

 そしてどうやら、お姫様の気まぐれではなく、どうやら本気のご様子で、黒狼月の祝いに、明らかに駆け引きをしようしてるのか、あるいはリュウに何らかのアピールをしたいらしい。それで、黄色い蘭と黄色いミモザを引っかけて、自分は自らリュウとペアになって……雪の迷宮の中で、今頃二人で何を語らっているんだろう?

 それを、エリーゼに教えるのは危険だった。
 何故に、アスランが、性格が良く穏やかなイヴ姫が、気まぐれに冒険者にちょっかいを出しているのではないかと勘ぐったのかというと、……その身分差である。
 神聖バハムート帝国は、その名の通り、皇帝以下、完全なカースト制で庶民と皇族が対等という事はあり得ない。中でも、地獣人モフの差別問題などは、差別ありきと最初から決まっているぐらいである。同じく、風精人ウィンディ以外の種族や、外国人に対しても、冷遇することが多い制度になっている。
 そこで、他の大陸の華帝国、しかも名もない村の出身の青龍人ドラコ(当然ながら風精人ウィンディ以外)が、どうして大活躍出来たのかというと、魔大戦という異例の戦時下だったからに他ならないのだが……それをおいても、リュウのバケモノクラスの強さというのが凄まじい。
 実際、アスランから見ても、リュウは自分の強さを知っている上での驕らない謙虚な善人で、全くいい男であることは鉄板なのだが、その身分差たるや、正しく天と地となのであった。少なくとも、神聖バハムート帝国内においては。

 それで、アスランは、世間知らずのお姫様が、リュウの強さや性格の良さに一発で参ってしまった事はわかるのだが、その後、その天と地との身分差に、悲劇酔いしているのではないかと、要するに恋に恋している状態じゃないかと、随分疑っていたのである。

 だが、黒狼月の祝いにまで、自分からリュウとペアになって、庭園内のミモザでゲーム中にアピールとなると、流石に子供のいたずらや、恋に恋する女の子ではすまされないと思う。
 何しろ、黒狼月の祝いは三皇女が話し合いを持って初めての祝いだ。

 ……要するに、イヴのリュウへの恋愛感情は、マリやアルマにもバレていて、当然ながら、他の姉妹もイヴを応援しているという事になるのである。
 その程度にイヴは本気だ。

(秘密の恋って、イヴ姫。全然秘密にしてないじゃないですか)
 アスランはそう突っ込みたくて仕方なかったが、当のイヴ姫は、まだ自分の気持ちに周りが気づいていなくて、それなりに、リュウにほのめかしたり気を引き合ったり、駆け引きを楽しんでいるつもりなのだろう。……つもりなのだろう。 

back index next
あとがきなど
いつも読んでいただきありがとうございます。